情報共有の意味するもの

 会社でIT化を進めるに当たり、まず要望されるのが「情報共有」です。一昔前までの主流は、業務効率化や定型業務の自動化というOA化でしたが、最近はこのステップの話はほとんどでてこず、IT化のキーワードである「情報共有」ばかりです。(個人的には、OA化ができていない環境でのIT化は無理だと思います。が、この点を最初に説明しても理解してもらえないのでいつも苦労します。)よくある要望として、

 「現場の情報を本社で見られるようにしたい」
 「よく使う書類を同じ場所から取り出せるようにしたい」
 「過去の資料を容易に検索して利用できる仕組みを作りたい」

等があります。もちろん、これらはIT化を行うことで実現可能なことなのですが、

さて、質問です。

 ・実際にどの程度のニーズがあって、
 ・そのためにどの程度のコスト(作成手間、更新手間)がかかり
 ・どのようなデータ・情報・知識を扱うか

までを検討されていますか?こう尋ねると、答えに窮する方が多いです。

 一つ目のニーズですが、「何となくあると便利」程度ではすぐに使われなくなります。ないと困るとか、あったらきっと利用するという明確なニーズが必要です。これは、会社の成熟度や業務形態と密接に関係しています。例えば、施工計画書を作るときでも、ひな型があれば便利だと思うのですが、

「現場はそれぞれ違うんだから、他現場のは使えるはずはない」
「自分の考えを形に表すのが施工計画書、他人の真似はするな」

などという人が多くいると、ひな型を共有フォルダに入れても使えません。特に上職者がこういう考えでいると、部下は使いたくても使えないのが実態です。資料の再利用による業務効率化という考え方が会社に根付いていないといけません。つまり、一部の先進的な人たちだけでなく、多数の人が求めているものでなくてはならないということです。もちろん、啓蒙活動や教育等でカバーすることは可能ですが、十分な準備が必要です。会社の成熟度によって左右されるのはいうまでもありません。

 次に、二つ目のコストです。初期費用(イニシャルコスト)に目をとらわれがちですが、私は運用費用(ランニングコスト)の方が重要だと考えます。運用費用をケチるとろくなシステムにならないのは間違いありません。特に、「情報を収集・維持管理する方法」をしっかり決めておかないと、「仏作って魂入れず」です。「そんな無駄ことを」とか「どうせ誰も使わないよ」などといって情報提供の手間を惜しみ、やがて中身が陳腐化してしまうというトラブルが多くあります。
 維持管理とは、システムが正しく動くというだけでなく、新鮮な情報を更新していくことも含まれています。つまり、システム担当者だけでなく、関係社員全 員が何らかの負担をして、システムを維持していかなければ情報共有は成り立ちません。業務の中にしっかり組み込んでいかないとダメなのです。
 OA化は自動化ですから、初期費用でしっかりしたものを作れば運用費用は少なくすみますが、IT化は初期費用が少ない分、運用費用がしっかりかかります。そこを間違えてはいけません。

 三つ目の情報の選択は、上記二つよりさらに根本的なことです。情報共有というのは専門家の考え方でいうと、[データ共有 → 情報共有 → 知識共有] という3つのステップのん中にあたります。簡単に説明すると、

・データ共有(文字の集まりであるデータを共有する)
 例・・・工事写真、工事記録、伝票等を集めて放り込んでいる状態。
 
・情報共有(意味のあるデータである情報を共有する)
 例・・・再利用しやすいように分類された施工手順書、見積資料、安全管理資料、品質資料がある状態

・知識共有(情報を組み合わせた知識を共有する)
 例・・・利用することにより業務効率や安全・品質向上、コストダウンが図れるノウハウを共有できる状態
 
ということです。残念ながら、大半の情報共有システムは「データ共有」で終わっているようです。これは、システムに入れるものをきちんと決め、入れるための業務への配慮や社員教育など情報共有のための環境作を怠っているのが原因です。この入れるもの次第で情報共有は武器にも毒にもなるでしょう。その決定は難しく、試行錯誤を繰り返さざるを得ない部分でもあります。そこを十分理解して、少しずつステップアップしていくような体制作りが必要です。

 情報共有と一口に言っても、それを成り立たせるためには様々な準備や環境作り、継続的な活動が必要であるとおわかりいただけたでしょうか。システムを入れたからOKというのは、「IT化」ではあてはまらないのです。