業務プロセスの「見える化」

 IT計画策定で、業務プロセス(手順)が明確でないとワークフローシステムの導入は難しいと書きました。これはワークフローシステムに限ったことではなく、IT化を進める上で一番重要なのがこの業務プロセスの「見える化」です。

 中小企業で、システムの導入やシステム開発の相談を受ける際に、まずぶつかるのがこの業務プロセスについてです。会社全体のシステムや業務間連携が明確になっていないのはやむをえないにしても、業務プロセスが不明瞭なのは致命的です。

なぜならば、IT化とは、業務プロセスをIT(コンピューターやインターネット等)を用い、業務改善や経営情報の収集UPを目指すものだからです。このことを何となくは分かっていても、いざ自社に導入しようとするとほとんどの場合、OA化(目の前にある繰り返し作業をコンピューターで代用する)のイメージのみで相談されるケースが多いのです。
 業務プロセスを明確にし、IT化が必要な手順・レベルを決めた上でIT投資をしなければ、無駄な投資になるのは明白です。ところが、肝心の箇所が見えていないままに進んでいくのです。

 このような話をすると、時間がかかることはすぐにわかりますから、早期に結論が出ないことを嫌がる方もおいでです。しかし、「急がば回れ」なのです。無駄な投資を抑えるだけでなく、無駄な手順を省けば経費削減となる、こういった意味でも業務プロセスは明確にすべきなのです。

 ところが、業務プロセスを「見える化」しようとすると、様々な問題が出てきます。
「業務プロセスが重要なのはよくわかったんだけど、どうしたらいいのかわからない」
「このプロセスはずっと担当者の頭の中だから、イメージすらわかない」
「あの担当者は、自分のノウハウがうばれると思って、本当のプロセスを教えてくれない」
などといったことで、どれもITとは関係ない会社自体の問題といっていいでしょう。
 ここにこそ、ITベンダーがうまく解決できない理由が隠されています。これらの問題を無視して、ITベンダーに丸投げで導入・開発を行っても無理であることは、もうお分かりでしょう。この問題は自社で解決していかなくてはいけないのです。

 さて、先ほどの質問に対してそれなりの回答例をお話します。(すべての企業に当てはまるわけではありませんが参考にはなるはずです。)

 最初の「業務プロセスを見える化するには」
 一番たやすいのは、外部専門家を呼ぶことです。現状を外部の視点から見て、形にしてくれるでしょう。
 全てを外部に依頼するので自社でやりたいという場合は、少し勉強が必要ですが、市販ソフトで業務の流れを「見える化」することができます。「導入するために業務プロセスを見える化するのに、なぜ先にソフトを使うのか?」と言われそうですね。しかし、市販ソフトには、それなりに会社のノウハウが詰まっているのです。つまり、業務プロセスを見える化した上でのIT化という、ひとつの形であると言えます。この場合、導入したい分野の業務ソフトを選定する必要はなく、著名なソフトの資料請求をして勉強すればよいでしょう。体験版で流れをつかむとよりわかりやすいかもしれません。ヒントレベルであれば、パンフレットでも充分です。
 もっと本格的にやりたいという方には、日本版SOX法関連の本での勉強をお勧めします。SOX法は、内部監査の強化という観点から業務プロセスはこと細かに「見える化」します。業務フロー図、業務記述書、RCMの3点セットでプロセスを明らかにしていくので、うってつけです。

 次に「担当者の頭の中を見える化」する方法
 白紙の状態から聞かないようにしましょう。簡単でもよいので、帳票や記録から全体の流れを書き出し、それをベースに担当者に修正を依頼します。書けないと言っていた人が、下書きには進んで修正を入れ、オリジナルと言えるほどの仕上がりになることもあります。ポイントは、ひな型を用意してそこから修正していくことです。
 このひな型自体をうまく作成できない場合には、前述したように市販ソフトや他社事例を参考にしてよいでしょう。

 最後に「ノウハウの見える化」です。
 業務プロセスによっては、企業の財産であり、その担当者にとっても財産と言えるものがあります。外国企業においては、まず業務ありきで人がつく形が主で すが、日本では人があって業務が出来ていく場合が多いのです。ですから、個々人の業務改善が日本企業を支えてきたといっても過言ではありません。結果とし て個人ノウハウが表に出ないまま現状に至っているのです。
 この個人ノウハウは企業内で培われたものとはいえ、その担当者の努力によるものですから、その点を充分に配慮することが必要です。賞与や昇格などを含めて「見える化」に対する損失イメージをなくす工夫が大切です。このような企業の収益の元になる業務プロセスから着手するのは控え、周辺の補助業務的なものから初めていき、会社自体に「見える化」を根付かせることが大切です。

 業務プロセスの「見える化」は業務改善の入り口ですが、非常に重要かつ大変な労力と時間を要するものです。しかし、ここであきらめずに通り抜けた企業が、勝ち組と呼ばれるのもまた事実なのです。短絡的にシステム導入・開発を考えることなく、じっくり時間をかけて進めることです。