業務に対する意識改革

中小企業において、業務改善がうまく進まない理由の一つが、業務手順が明確でない・経験が暗黙知(形になっていない知識)であることを以前に述べました。この問題は、業務に対する意識改革なしでは解決しません。

 日本では、業務に対して感情論が大きすぎるように思います。

「これだけの給料をもらっているのだから、できなければだめだ」、「みんな忙しいんだから、残業はしょうがない」、「君なら出来るがんばれ」などの感情論、精神論が目立ちます。
 これらに共通するのは、根拠がほとんどないということ。他社比較や業界標準を意識したセリフではなく、あくまでもその人の経験・思想に基づくものです。こういった話が多いところでは、業務は根性で成し遂げるものとなり、改善はないでしょう。

 業務におけるトラブル等、様々な問題に際しても精神論を前面に出してくる企業は、「問題は起きてはならない」ということを「問題は存在してはならない」と解釈します。そして「起きた問題は内緒にして無かったことにする」と、隠蔽に走ります。
 それに対し、現実的な対応をする会社は「問題は起きてはならない」を「問題は存在するが起きないようにする」と考え、「問題が起きる前に見つけ出し対処する」という改善に動きます。業務改善は問題を解決することによって行われまが、隠蔽が横行すると、改善するための問題提起が出来なくなってしまいます。
 「問題は隠すのではなく、起きる前に見つけ出してつぶす(もしくは小さいうちに報告して被害を最小限にする)」意識を社員全員がもてるよう、経営者が率先して環境づくりをすすめなければ、業務改善の意識は育たないでしょう。

 トヨタ方式経営とよく呼ばれるものは、「カンバン」「カイゼン」というキーワードが出てきますが、私は社員意識を育てるのが一番重要だと考えています。

 この社員意識のポイントは、「人がいて業務が発生するのではなく、業務に対して人をつける」です。業務ありきで人が後であれば、必要なコストがわかり、冒頭で挙げたようなセリフは出てこないはず。「この人がいないとこの業務はわからない」とか「この人ならこの程度の業務はこなせるだろう」などというのは、「まず人がいて、業務はあと」の典型例です。
 業務の属人化。それが「人ありき」なのです。最初は「業務ありき」でスタートしても、忙しさや人員不足を理由に例外としたり、新しい処理をその人に任せて「人ありき」にしてしまう。結果として、比較的暗黙知がないといわれる事務
業務ですら「担当以外はわかりません」となってしまうのです。

 外資系企業では、スタッフが急に辞めても困らないといいます。管理者は、常にスタッフの仕事を把握しており、必要な業務手順はすべて管理者側が把握して いるからです。多くが終身雇用ではなく入れ替わりが激しいこと、言語・文化が多様なために以心伝心は通用しないことが背景にあるのですが、外資系企業では業務ありきが形になっているのです。

 一方、日本的企業の場合は、スタッフが急に辞めたとたん、滞る業務が発生します。それは、管理者が把握していない業務が存在するからで、終身雇用による人員の固定、同一言語・同一環境による暗黙の以心伝心がこの背景にはあります。これが人ありきを助長しているのです。

 「中小企業は人材不足だから、人を割り当てるなんて無理」「このメンバーでやるしかないのに、業務ありきなんて」という方もいらっしゃるでしょう。しか し、「まず業務を考え、適任に近い人を割り当てた上で、不足知識を把握しその人を育てる」という流れを会社の中で作り出していかなければ業務改善はできま せん。
 
 では、この意識を身につけるにはどうすればいいのでしょうか。
 まずは「業務はいつでも引き継げるようにする」ような意識を 持たせることです。こうすると業務は明文化されます。実際には、業務ローテーション(業務交換)を行ったり、育児休業や長期休養を取得できる制度を導入す れば可能でしょう。(業務を交換できるようにするには、業務手順が誰にでもわかるようにしなくてはいけませんし、安心して休めるようにするにも同様です)

 次に「業務は時代に応じて変わっていくべきもの」という意を持つことです。業務に使えそうなITの紹介や法律改訂・業界動向の勉強会実施が重要です。つまり、社員教育をしっかり行える環境づくりがポイントです。

 意識改革は簡単ではありません。だからこそ、真の業務改善も簡単ではないのです。ソフトの導入やコンサル支援で一時的な業務改善はできますが、すぐに行き詰りまるでしょう。業務に対する意識改革をしっかりやることが継続的な業務改善の第一歩なのです。

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