IT活用が失敗する理由

   「IT活用がうまくいかない」、「世界的に見て日本のIT活用レベルは低い」などの声が、新聞を賑わしています。実際、様々な分野において、日本はアジア諸国に追いつかれ、追い越されています。少子高齢化が進む中、IT活用は今後ますます重要視されていくでしょうが、このままでは勝ち目がありません。

 今回は、私がいろいろな企業を訪問し聞いてきた中から、共通すると思われる「IT活用の失敗理由」を述べます。活用レベルの低い状態から順に、挙げてみました。(最初のほうほど、問題が大きいと言えます。)自社の状況がどこに当てはまるかを考えてみてください。

1.目的が明確でない
 もっとも問題となるのは、「他社の成功例を見て自社も」といった、宣伝に踊らされ導入したケースです。つまり、自社として何をしたいかが明確でないのです。よほどの幸運でもない限り、大抵は失敗します。しかも、この手の場合、成功を夢見て導入するため、失敗したときの経営者や社員のショックは大きなものです。結果、「ITなんてわが社には向かない」という八つ当たり的結論に達します。

2.業務手順が明確でない
 業務の流れが属人化している、例外処理が多い、ルールが決まっていない等のケースです。
 この場合の失敗は二つにわかれます。一つ目は、市販ソフトを買ってきて、市販ソフトの流れに業務をあわせようとしたが、業界や社内特有のルールを反映できずに業務の大半をシステム以外でやることとなった。結果として、システムのほとんどが使わないまま放置される。最悪の場合は、元の状態に戻ってしまったというものです。
 もうひとつは、該当業務のすべてをシステム化しようとして、例外処理の多さにシステム費用が掛かりすぎたり、時間短縮に全く貢献できていなかったりするものです。
 結果として「ITなんてしょせんはまだまだなんだよ」などの発言となります。

 原因は、どちらの場合も、「業務のどこまでをシステム化するか」を考えるという業務手順の文書化(IT化の前段階です)が出来ていないことです。また、業務そのものにおいても、ITには得手不得手があります。繰り返しや転記、決まりきった流れなどが多くある業務にはITは最適ですが、その部分を明確にするには、まず業務の流れを把握することが必要です。

3.業務手順の見直しがない
 昔のような部分的なOA化(ワープロでの清書や簡易な集計業務)であれば、業務手順はそのままでよかったでしょう。しかし、昨今のIT導入においては、象となる業務範囲が大きいのが普通です。つまり承認業務(いわゆるハンコ)をどうするか、例外処理をどこまでなくすかを決めておかねばなりません。さもないと、システムで入力しているにもかかわらずハンコを押してもらうために印刷する・・といった無駄な作業が発生し、「ITなんて手間が増えただけだ」という事態になるのです。

 ITの得意分野をよく理解し、不得意分野を減らしながらも、それが必要な業務であれば潔くシステム化しないで人で対応する。それが重要なのです。なんでもかんでもシステム化という完全主義の方もいますが、見直しなしの完全主義はただのワガママです。

4.自社のITレベルを履き違えている
 「わが社は優秀な人材が豊富だから大丈夫」と無理な活用計画を立て、挫折しているケースです。業務分析や見直しはすんでいるのですが、肝心の利用者教育や成熟度判断を無視して活用しようとしています。
 「ITなんて所詮は大人のおもちゃだよね」とうそぶく管理職がいる場合も多く、グループウェアなど情報共有型ソフトの操作もうまくできないため、承認業務がかえって遅くなったりします。IT化においては、業務と同時に人も変わらなければ効果が出ません。開発終わったら後は野となれ山となれではないのです。

5.語句や意味の統一ができず、部分最適になっている
 部分最適に陥っているのがこのケースです。企業のマスターデータは、唯一の存在であるべきです。ところが、支店ごと部署ごとでコード番号がずれていたり、呼び名が変わっていたりが少なくありません。
 IT化は全体最適による効果が大きいにもかかわらず、そのポイントを見落としているのです。大企業でも、このレベルを脱しきれず期待したほどには効率があがらない状況が見られます。「ITなんて費用対効果が見えにくいよね」と、自分たちのやるべきことを棚に上げて言っているのがこのパターンです。
 目標や業務指標を共通化して、導入前と導入後の差を明確にするには共通語が必要なのですが、それがありません。

6.番外編として
 どのレベルにもあてはまりますが、専門家まかせも問題です。専門家を利用して導入活用を楽にするのは大賛成ですが、頼り切って専門家がいなくては業務がうまく流れない、活用ができないのでは本末転倒です。あくまで主人公は社員であり経営者です。専門家は、補助や助言を得るのに利用するだけとし、自らの足で一歩ずつ確実に進んでいかなくては、付け焼き刃の成功でしかないでしょう。専門家がいなくなったら活用も進まなくなったというのでは、IT活用は失敗なのです。