業務改善ができないのはなぜか

 景気は下向き、世界情勢はますます厳しい状態で、会社が生き残るためには効率よい業務が不可欠です。しかし、「言うは簡単だが行うは難し」なのがこの業務改善です。やればいいのにやれないのはなぜでしょう。

 多くの中小企業が業務改善の必要性を感じながらも、結果的に着手できていないのは、目の前の仕事を消化するので精一杯だからとよく言われますが、実際は違います。
 これから、私がいくつかの会社を訪問する中で感じた理由をお話しましょう。今回は、「意識」を中心に据え、問題点を述べます。

 

第1に、本当の意味での問題意識がありません
「今の業務が非効率なのはわかっている」と反論される方もおありでしょうが、その方に「どこが悪いのですか」と聞いてもきちんとした答えはありません。人 によっては「在庫管理」とか「書類が煩雑だ」ぐらいの理由は出るでしょうが、では「どの在庫商品ですか」「どの書類ですか」と聞くと、とたんに答えに窮す る場合がほとんどです。真の意味でのできない理由を考えていないのです。
 これは、既存の業務手順で何とか仕事が回っていることに安心感を持っているためでしょう。簡単に言うと、現状に満足しているのです。本当に今の業務が問題ならばすぐにでも変えるべきなのに、それが変わらないのは、今までの成功体験にしがみついたり問題を外部環境のせいにしたりして、「業務が悪い」という問題を本当に意識していないからです。
 このパターンでは、言い訳として「今までこれでよかったんだけどな」「最近は世の中が厳しいから」などのセリフが続きます。また、「うちではこれが精一杯」「うちの従業員はよくやってくれている」と、現場を知っている経営陣が昔の尺度でのみ業務を評価している場合にも、問題意識は育ちません。

 第2に、会社全体にコスト意識が欠落しています。「あの仕事はおいしいけど、この仕事はまずいからやりたくない」といったコスト意識はありますが、まずいといわれる厳しい仕事から利益を出せるようになれば、おいしい仕事からはもっと利益が出るという考えはありません。現状を変える気がないからこそ出るセリフです。
 だらだら休憩している幹部、検討ケースを可能性のある限り検討させるような上司も同様です。たとえ、仕事の区切りがよくても休憩時間はきちんと守る。検討ケースも無駄に検討しすぎることのないよう、理由をつけてまとめる。当たり前のこと でも、その指示や態度がコストにつながると常に意識していなければ出来ません。   書類を複数部用意するにも、プリンターで出力すればインク代と紙代だけだが、コピー機を使うとカウント量がとられる。そういったコスト意識があれば、低コストですむほうを選ぶはずです。自分が歩いているその時間も人件費のうちだという意識が働けば、ついでにできることを考えてから動くはずです。しかし、やらされ感が強かったり、意識していない人は、コピー機でコピーしますし、無駄に何往復もしています。
 トヨタのカイゼンでは、無駄に歩くことが第一に指摘されます。このような意識が無ければカイゼンはできません。

 第3に、会社全体で危機感が共有できていません。この傾向は特に、幹部の中で現場をあまり見てない人に顕著です。困ったことに、このような幹部に限って過去の成功体験にしがみつき、既得権利を保持しようと改善に横槍を入れる人が多いものです。自分の存在に危機感をいだき、会社存続の危機感を意識していないと、こうなってしまいます。
 また、その幹部の取り巻きが、諸事情により危機感を低下させる方向に動く場合も少なくありません。危機感は一部の人だけが持っていてもだめなのです。ほとんどの場合、その影響は一部署のみならず複数部署にまで影響します。承認などの会社共通の手続きならば、改善の影響は全社に及ぶでしょう。もちろん、パイロット業務やお試しという形で波及を抑える方法はありますが、それも時間の問題です。だからこそ、業務改善はたとえ一部署ではじめるものであっても、改善しなければならないという危機感は、全社で共有すべきなのです。

 最後に、業務改善のメリットが労使で共有されないことです。一時的に人的負荷をかけて業務改善をし、それによって後の業務が楽になればいいのですが、そうではない場合も少なくありません。業務改善で時間短縮を行っても、経営者は新しい業務時間をすぐに標準としてしまい、しかも労働単価を上げないケースが少なくありません。
 「効率化してもメリットがあるのは会社側だけ」といった意識が従業員側にある限り、思ったことを発言することすらしないでしょう。コスト意識が欠落していると顕著になります。なぜならば、改善された結果がコストに跳ね返っている意識がないからです。もちろん、生存競争に生き残るために、時間短縮・コストダウンは必須です。その利益を一律、従業員に返すのでは元も子もないでしょうが、適切なメリット(報償や評価)を従業員に与え、改善メリットを共有するようにせねば業務改善は進みません。

 業務改善ができない理由としては、上記に挙げたような問題が複数組み合わさっています。しかし、最大の問題は、出来ない理由をきちんと考え、その問題を取り除こうという気持ちがないことです。漠然とした気持ちだけで業務改善はできないと、最初に自覚していただきたいと思います。