「見える化」の勘違い

 IT活用による「見える化」が真っ盛りです。「激動する経済環境や社会情勢に対応するため、迅速な現状理解・判断が必要不可欠です」といった文言が、あちらこちらでうたわれています。確かに、この言葉は正しいのです。成功事例を色々紹介され、ITシステム導入によるメリットを強調され、その気になっている経営者も少なくありません。

 しかし、導入すれば全員が成功するのでしょうか?答えはNOです。知らず知らずのうちに、勘違いをしているからです。今回は「見える化」のよくある勘違いについてお話します。

1.「見える化」は「効率化」ではない

 まず、最初に認識していただきたいのは、「見える化」の行為そのものは「効率化」ではない点です。むしろ、何らかの作業が発生する以上、「非効率化」する部分が発生することが多々あります。今までまとめていなかった数値をまとめる、あるいは、漠然としていた在庫数を正しく管理する等、必ず新たな業務が発生し、それはその関係者の新たな負担となります。

 確かに、ITシステムを導入することにより、追加作業を減らすことは可能です。しかし、それは「情報収集」や「情報整理」を減らすだけで、もともとの業務そのものを減らすことにはなりません。さらに、今までしていなかったことをする以上、追加作業が無ということもありません。

 これが、OA化の場合は、「自動化」ですので効率化と直結していました。よって、導入で業務を効率化することができたのです。しかし「見える化」は、業務の「自動化」ではないので、効率化と直結しません。となると、「見える化」することで何らかの負荷が増えることをきちんと認識し、必要な業務分担や人員補強をすることが必要です。これを忘れると、「せっかく見える化したのに負担が増えた」と、勘違いし不満が出ることになります。

2.「見える化」だけでは何も変わらない

 「見える化」とは、当然のことながら、見えなかったことが「見える」だけです。「見える化で経費が大幅削減」とか「見える化で売上UP」とか書かれているのを見て「見える化」さえすれば結果が出るんだと勘違いしないでください。必要なのは、見えたものをどのように利用するか、見えることで何を改善すればいいのかを決め、実行することです。

 ITシステム導入により、財務情報や商品情報がずっと早く「見える化」しても、その情報を生かしてコストの問題点を解決する作業改善を行い、また売れ筋を増やし、死に筋を止める仕組みづくりを実施しなければ何の意味ももちません。「見える化」は手段であって、決してゴールではないいのです。OA化は導入しただけでそれなりの効果がありますが、いっぽう、「見える化」は、導入しただけでは何の役にも立たないことを忘れないでください。

3.無駄な「見える化」がある

 「見えすぎちゃって困る」は昔のアンテナのCMですが、見えすぎることで大事なことが見えなくなることがあります。POSシステムやバーコード管理の導入で単品管理ができるようになるのはいいことですが、データ量がとてもつもなく増えすぎ、集めるのに精一杯で、分析まで全く手が回らない等というのも、少なくないようです。

 また、1.で述べたように、作成=業務の増加を意味します。現場で疲労感が増えるだけでは意味がありません。必要だと思われるものを、現場の成熟度レベルや管理の成熟度レベルに応じて順番に増やしていくようにしましょう。でないと、宝の持ち腐れどころか負担以外の何ものでもないといった事態になります。あれもこれも見えるほうがいいと思うのは勘違いです。ほどほどに見えて、あとは適切な仮説や推定で対応するほうが大事なのです。もちろん、なかなかすぐには、この状態にできません。最初はある程度のデータを取りながら、それぞれの「見える化」が有効なのか無意味なのかを判断しつつ、必要なものだけに絞り込む作業が必要です。 

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