文字化する文化を育てる

 今回は文字化する文化を育てることについて少しお話します。

 多くの中小企業で見受けられる課題の中に決めたことが定着しないというものがあります。「ITシステムを導入しても入力がきちんとできない」とか「原価管理をしたくても原価データを提出してくれない」とかです。

 定着しない仕組み側のほうに問題があることも少なくないですが文字化することの重要性の認識が社内で欠けていることが多いです。

 中小企業に限らず、ずっと同じ役割を担った人の集まりは自然と「あうんの呼吸」というものを求めるようになり、それに応じることを当たり前と考えるようになります。必然的にすべての報連相は口頭で行われるようになり、その内容も様々な前提の元、断片的な会話になりがちです。

 業務がずっと変わらない場合であれば、それでも問題ないのですが、世の中がこんなに変わっている状況でそれができる業務はほとんどありません。IT化のような場合は定義なしではシステムがつくれないため、「あうんの呼吸」はありえません。そのために、自分の業務や役割を文字化することになるのですが、なかなかうまくいかないことが多いようです。それは文字化することに慣れていないからです。

 IT化は特別な出来事かもしれませんが、では、ちょっとした業務変更の決め事はどうでしょう?具体的に言うと、みんなで集まり会議を行って、業務変更を決めるときに議題を決めず、変更理由や変更する経緯の資料も用意せず話し合った結果も記録せずに何となく個々人の理解と記憶に期待していませんか?

 「そんなことしなくてもみんなわかっている」とみなさんが思っているほど当事者がわかっていないことが多いです。それは業務改善やITシステム構築がうまくいかない原因がここに起因していることが少なくないからです。つまり、伝えるべきことが伝わっていないということです。同じ議題を何回も話していることも少なくないのですがそれすら感じていない社員がいるのです。

 文字化することに慣れていないと新しいルールや手順をきちんと文書化できません。結果的に不備があるもので改善を始めるためにトラブルが発生します。しかし、そのトラブルもうまく文字化できないために対策がきちんとれず、ますます悪い方向に転がっていきます。解決能力がある企業でもこの文字化する能力が育っていないために的確な課題把握ができず、解決能力を活かせていないケースが見受けられます。すべて文字化がうまくいっていないことが理由の一つだと思います。

 「百聞は一見にしかず」といいますが、百回話しても1枚書いた説明資料のほうが勝ることは何度も経験しました。打合せ資料を出さずに話をしたときと打合せ資料を事前に渡したうえで話をしたときの記憶の残り方やその後の進め方には大きな差があるのはいうまでもありません。

 しかし、文字化するという風土は一日二日でできるものではありませんし、社内の一部でできるものでもありません。会社全体がその重要性を認識して、行動を起こさなければ定着はしません。ではどういう行動をおこなうべきでしょうか。

 以前、議事録の重要性とその記録のポイントを説明したことがありますが、これ以前に社内全体で行うべきことがあります。それは

 「メモを取る習慣」

です。建設業では測量や出来形計測で野帳に記録を取るのですが、朝礼や定例打合せでもメモを取ります。これが当たり前だと思っていたのですが、いろいろ企業を知ることでそれは文字化するのが当たり前という企業文化があってこそだというのがわかりました。

 問題を抱えている企業に行って、最初にみるのがこのメモを取る習慣なのですが、やはりほとんどの企業がとれていないです。また、その指摘をしてもすぐには行動にうつせずに、半年も一年も定着しないことがあります。会社全体が認識をもって取り組まないとなかなか定着しないのだと感じています。

 上司の話を聞くとき、打合せをするとき、メモを取らないと必ず指摘をし、メモを取る準備ができるまで話が進めない。もちろん、定期的にメモの取り方にも指導をする。そのようなことを会社全体で行わない限り、なかなか文字化する文化は育ちません。もし、自社で業務改善等がうまくいかないと思っている方がいれば、この文字化することの重要性を一度考えてみてください。

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