前回、ITリテラシーのお話をしました。情報技術を使いこなす力として、これからの建設業には必須と思われます。ITリテラシーを向上させるポイントは、以下の二点でした。
・管理職へのITリテラシー教育
・継続的な教育支援体制の確立
ところで、よくある質問が、「ITがこのまま進んだら、教育なしで簡単にできるソフトやハードが出てくるんじゃないの」というものです。今日はこれにお答えする形で、教育とシステムのバランスについてお話したいと思います。
先ほどの質問に対する回答は、「いつかは来るかもしれませんが、すぐではありません。その間にあなたの企業は置いていかれます」。
みなさんが衝撃を受けたであろうWindows95の発売から10年経ち、 ハードの速度・容量は劇的に進化しましたが、キーボードとマウスの入力から逃れられてはいません。今年発売予定の最新OS Windows Vista でも、その状況は大きく変わりません。確かに、従来大型コンピュータやオフコンで行っていた作業が、卓上の小さなノートパソコンで可能になりました。しかし、音声入力やAI機能もまだまだ一般的ではありません。まだしばらくは、キーボードとマウスのお世話にならなくてはなりません。
また、インターネットの普及で、さまざまな情報を瞬時に入手できるようになりました。しかし同時に、ウィルスやスパイウェアによるネット犯罪の危険にもさらされています。それだけではありません。一般消費者に限らず、新しい取引先を調べるのに、その取引先のホームページを見ることはごく当たり前になり、製品比較も容易にできるようになっています。
このような状況の中で、先ほどの質問のような状況を想定しているようではいけないでしょう。
また、よくある話ですが、例えば、ITに不得手な発注者がよくいう「誰もが簡単にできるシステム開発を」というのは、最終的に自分で自分の首をしめることになります。なぜならば、「簡単にできる」ようにすると、融通が利かなくなり(手間が多いと使いづらいため)、自動的に判断する部分が増えるため、システムが大きくなるからです。システムは、大きくなればなるほど中身が複雑になり、開発に時間もお金もかかります。また、古くなってリプレースするときにはさらに大変な労力を要します。つまり、「誰もが簡単にできるシステム開発」は、デメリットが非常に大きいということなのです。
欧米では、一般的な市販ソフトを組み合わせたり、専用ソフトでも基本パッケージのまま使い、業務やITリテラシーをそれにあわせることが多いようです。しかし日本では、専用ソフトも極力カスタマイズして自社専用にすることが、独自性の確保のように言われています。残念ながら、このようなシステムは維持管理が大変で、開発以外にも費用がかかる場合が少なくありません。むしろ、教育をしっかり行い、システムは基本に近い状態で使うほうが維持費も安いし、変化にも柔軟に対応できます。
IT教育は、業務教育よりもさらに外堀を埋めるような感じがしますから、忙しい中小企業の方々には敬遠されがちですが、「急がば回れ」なのです。社員の基礎体力(ITリテラシー、業務知識)を着実につけた会社のほうが、最終的に会社の成熟度はあがり、効率よい一貫性のある体制を築くことができます。もちろん、単発的にやるのではなく、講習会やOJTにヘルプデスクのような支援体制をつくり、継続的にリテラシーを向上できる仕組みを作るのが大切です。
そしてシステムは、その教育で築き上げたレベルに応じて段階的に導入していくようにします。ある程度のレベルになると、確かに独自性を出した自社製ソフトも必要になりますが、最初は市販ソフトの組み合わせでも充分に成果が出ます。大切なのは、器ではなくて中身です。IT成熟度といわれるレベルが向上すれば、ITを使った業務改善も可能になり、従来の業務手順は不要になるかもしれません。
そうなれば、ますます「融通の利かないシステム」は不要になり、市販ソフトを上手に組み合わせることで一定の成果があがると思います。このシステムと教育のバランスを意識した計画・体制づくりが、IT化の重要なポイントなのです。