会社の技術力、営業力、IT活用力を向上させるためには、教育が重要です。以前、IT教育運用計画の策定でもお話しましたが、社歴や職歴に応じた計画をしっかり策定し、適切な運用を行う必要があります。残念ながら、ここにマンパワーを割くことに抵抗のある経営陣は少なくなく、ほとんどの中小建設業で計画が未策定のようです。
では、そのような企業ではどうやって技術伝承や企業力UPを行っているのでしょうか。
よく言われるのがOJT(On the Job Training)です。これは、日本では昔から言われている「習うより慣れろ」という文化を表現しているようにいわれていますが、それは少し間違っていると思われます。本来、OJTは「職場内教育」の意であり、Off-JT(Off the Job Training:職場外教育)とSD(Self Development:自己啓発)の3本柱のうちの1本で、それ単体では効力が発揮できません。特にOff?JTとは切っても切れない関係であるにもかかわらず、別物と考えられている傾向が強いです。
OJTは、職務の遂行を通じて、管理者が部下に対し意図的/計画的な指導・育成を個別に行うことであり、決して「見よう見まねで行う」とか「師匠の技は盗め」というものではありません。
確かに、マニュアル化しにくい「暗黙知」では、このOJTによる教育が一番効果的ですが、マニュアル化された「形式知」を教える部分があってこそです。「形式知」を学ぶ術がない状態で「暗黙知」を学んでも、その意味を正しく把握できないまま年月が無駄に過ぎてしまうでしょう。これが、最近「技術伝承ができていない」と問題になる最大の理由です。
Off-JTは、講師によって行われる集合研修を意味する場合が多いのですが、一時的に本職以外の職場を経験したり、外部講習会への参加や勉強会活動なども含まれます。そしてここが重要なのですが、OJTで学ぶための基礎知識を習得するだけでなく、OJTだけでは漏れてしまう体系的な知識を習得するためのものなのです。
例えば、CAD操作の基礎知識を学んだ後に現場で図面を書き、その補足として構造の勉強や施工知識を身につけてもらう場合、所属している現場の施工
内容ではすべてを網羅できません。そこで、集合教育等で不足分を補い、OJTで学んだ内容が、体系的な知識の中でどの部分に位置するか把握してもらう必要があるのです。
また、OJTは、教える側の資質に大きく影響されます。教え上手といわれる人につけば幸運ですが、「俺の背中を見ろ」では、学習どころか意欲までなくなりそうです。これらを補完するのが、集合教育であるOff?JTなのです。
OJTでもOff-JTでも、大切なのは「どのようにして行うのか(know how)」だけでなく、「なぜ、そうなるのか(know why)」を習得できるようにすることです。「業務改善」が叫ばれる時代が長く続いていますが、「なぜ、そうなるのか」を教えずに「ただこうすればいい」では改善のしようがありません。そのことに早く気付くべきなのです。
例えば、コンクリート打設後にシートをかぶせるのはなぜかを教えず、シートをかぶせることだけを教えていたら、冬の寒い時期にはどうするのか、夏ならど うするのかなどを考えずシートをかぶせ、表面のひび割れや硬化不足を起こすことになります。シートは、保湿なのか保温なのか、それともその両方なのかを教 えることで、シートの端部を押さえて熱が逃げないようにしたり、散水してからシートをかぶせるなどの行動をとるようになるはずです。もちろん、効率よく行 おうとする段取りも考えられるようになるでしょう。
もちろん、「こういう理由があるからこういうことをする」という教育は、教える側に大きな負担がかかります。状況によっては、図解したり、少し遠回りな指導を行う必要があるでしょう。
これを少なくするのがOff-JTなのです。「うちはOff?JTするにも資料がない」という方も、会社でマニュア ルを作成するのが困難ならば、市販の参考書を購入して利用してもよいのです。それが社員全員に共通であれば、「この作業の意味は○○ページに載っていたこ とだよ」と話せますし、共通の参考書を用いた勉強会なら、開催も比較的容易になるはずです。要は、基盤となる知識を学ぶ環境作りが大切です。
「Off-JTにかける時間はない」とお考えの経営陣もいらっしゃるかもしれませんが、基礎力なくして応用力は身につきませんし、改善は更に不可能です。会社が継続するために、必要な投資であることをぜひご理解していただき、社内教育計画を策定運用していただけるよう願います。