ゼネラリストとスペシャリスト

  最近、中小企業のご支援の際に人材活用や人材育成の相談を受けることが増えました。人件費を抑える中でいかに業務をスムーズにすすめるようにするかということが重要な課題となっているからです。また、中小企業での人事は中途採用が多い傾向にあります。即戦力を期待するからですが、そのために技術伝承が困難になったり、会社の一体感が熟成しにくくなったり、職場の核になる人が出てこなかったりします。

 何より問題なのは、中途採用が多い会社ほど、長期的な経営戦略がなく、人材開発計画や教育計画がありません。結果として人材が必要な時は育成せずにますます中途採用に頼る傾向にあります。中途採用が悪いわけではありません。しかし、計画的でない中途採用は結果的に会社自体がうまくいかない要因となるということです。

 

中途採用をするのは、何か特定の分野に関する深い知識や専門的な技術を求めている場合が多いです。つまり、「スペシャリスト」が増えていくわけです。当然、その分野では優秀な能力を発揮しますから与えられた業務が変化しない限り中途採用は有効です。しかし、一方で中小企業は限られた人材で変化が多い現代を切り抜けていかなければなりません。ということは少ない人員で多くの業務をこなしていくことが大切です。これはとびぬけた分野はないが複数の分野においてある程度の知識や技術を持っている人が必要となります。つまり、「ゼネラリスト」が中小企業では必要となるのです。

 「スペシャリスト」で採用した人を「ゼネラリスト」としても使えるようにする。これが中小企業での人材活用のひとつのキーだと思います。しかし、そのようなことを意識した教育計画や人材開発がされていることは少なくありません。そもそも、そのような計画があるのなら、中途採用者がそんなに増えることもないはずです。そこができていないために、その時必要だと思った能力だけを評価して「スペシャリスト」を採用し、人材活用がうまくいかずに業務効率が下がっている。そのような企業が少なくないのではないでしょうか。

 「そんなものに時間をかけたくない」「教育費など出せる余裕はない」と経営者から言われることもありますが、目先の利益に追われると企業活動がうまくいかなく例をよくみます。逆に一人が二役も三役もこなせるようにすることで企業が活気づいている例は旅館再生で有名な星野リゾートのようにたくさんあります。中小企業で教育を行うことは簡単ではありません。OJTのような業務内教育を上手に使いつつ、教える側の質が均一でないことをカバーするために定期的にOffJTである集合教育を行う。このような教育計画をしっかりたてないとだめなのです。そのためには中長期の経営計画がきちんと立てられ、必要な人材がしっかりとイメージされている必要があります。「急がば回れ」ではありませんが、人材活用は経営戦略から始まるのです。

 「とはいえ、そんな時間も持てないし、計画をたてるすべもよくわからん」という時にお勧めしたいのが、業務の正副担当制です。これは、一つの業務に正の通常時担当者と副の緊急時担当者を決める方法です。人材が少ない場合は2人ひと組でやってもいいですし、もう少し余裕があるのなら何人かで組み合わせるほうがいいです。こうすることで他の業務を理解できるとともに正の不在時にも比較的スムーズに業務をすすめることができます。また、この制度を上手に活用して、ひとつの正と複数の副を割り当てた人材を育てることで「スペシャリスト」から「ゼネラリスト」への変換を図ることも可能になります。

 ただし、この正副担当制を成功させる際に一番重要で一番厄介なことは「属人性」の排除です。業務内容が属人性が高くその人しかできないものはこの制度は使えません。しかし、一般的に見れば属人性がないような経理業務でもなぜか中小企業では属人性を持っている場合があります。それは、以前もお話ししたように業務に人が割り当てられているのではなく、人に業務が割り当てられているからです。これを見直す必要があるのです。

 そのために行う作業が前回お話しした「見える化」です。業務フローを書き出し、必要な情報を共有化できるようにし、いつでも交代できるような仕組みづくりをする。ITを活用してできるだけ技能を習得せずにやれる仕組みを作る。必要に応じて簡易なマニュアルを作成する。人材活用は簡単ではないですが、創意工夫でできることはいろいろあります。安易に非正社員や中途採用に頼らずに今いる人の能力を高めるようがんばりましょう。「スペシャリスト」だけでも「ゼネラリスト」だけでも会社はうまく回りません。両者のバランスよい育成が必要なのです。

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