企業での情報量が増えるにつれて、バックアップなどのデータ管理やハード・ソフト管理などの重要度が高まっています。しかし、中小企業では、専任者を置く余裕がないため、パソコンが得手な人間がボランティアでシステム管理をして、トラブルにはその限られた知識で対応し、うまく対応できないまま日々をすごしているとい
う状況が多いのではないでしょうか。そこで最近新聞や雑誌をにぎわしているのがSaaS(サース:Software as a Service)と呼ばれているネットサービスです。今日はこのSaaSについて少しお話をします。
SaaSとは簡単に言うとソフトウェアをネットワーク経由で使えるようにしたサービスです。もちろん、これだけなら以前言われていたASP(Application Service Provider)と同じです。正確に言うとASPは業者のことでSaaSはサービスそのものと違うのですが、日本ではASPをサービスのように取り扱っているので同じと表現しています。それでも以下の3つの特徴がASPとの違いです。
(1) マルチテナント
従来は、一つのコンピューターを一人の企業が占有するシングルテナントだったのが、複数の企業が共有するマルチテナントになったことです。これはコンピュータの能力アップや仮想化技術、開発言語の変化によるものですが、そのように使えるようにソフトウェアを作り替え、低コストで運用ができるような仕組みを取り込んで
いるのがポイントです。
(2) カスタマイズ
従来のサービスは、固定された機能や操作画面で提供されておりサービスに自社の業務を合わせる必要がありました。しかし、SaaSでは、基本機能+オプションといった組み合わせである程度の企業ニーズに対応できるだけでなく、カスタマイズ(特注)が可能になり、自社業務に合わせた機能や操作画面を用意してもらえるようになりました。もちろん、費用としてはそれなりに余分にかかりますが、単独自社開発よりもコストメリットがある場合が多いようです。
(3) マッシュアップ
もともとは「すりつぶす」という意味ですが、ITの世界では、複数のサービスを組み合わせるという意味でつかわれています。従来はサービス提供会社がユーザー企業を囲い込みたいために、データ共有すら許していなかったのですが、SaaSでは、データはもちろん、機能の一部も公開されたAPI(システムへの接続口)を通して使えるようになっています。これによって、複数のサービスを利用して、一つの大きなサービスにすることも可能になりました。
しかし、気をつけてほしいのは、SaaSと名前がついていても上記の特徴を満たしていないエセSaaSが多くあるということです。市販ソフトを無理やりWeb対応にしてただネットワーク経由で使わせているものやそもそも外部へのデータ接続を許可していないもの、カスタマイズがまったくできないものなど本来のメリットがないものが少なくありません。
先行している米国のサービスではPaaS、IaaSなど、ソフトを開発する環境自体をサービスで提供するような例もみられていますが、日本では少数です。名前だけ借りてきて中身がいっしょのものが少なくないのが非常に残念です。
とはいえ、サービス自体は以前に比べてずっと種類や提供業者も増えてきています。特にモバイルSaaSといわれる携帯電話やスマートフォンを活用したサービスが急速に増えてきています。メールやグループウェアなどの情報共有系のサービスであればそれなりに使えるものが出てきていますが、基幹業務系のサービスはこれから徐々にといったところでしょう。特にデータ連携のために必須なデータ形式の共通化が進んでいないのが大きな課題だと思います。こういうところに国が積極的に関与してもらえれば、中小企業のIT活用度UPに貢献できると思うのですが、なかなか難しいようです。情報共有系のものなかば、活用をお勧めしますが、基幹系はもう少し期待をもって動向を見守っていく状態だと思います。