情報共有を成功させるには(その5)

 前回までで、自社情報の棚卸しと共有メリットが明確になったとします。つまり、メリットを生み出す必要な情報を、必要な分だけ共有できる仕分けができた状態です。今回は、その情報入力を発生させるための仕組みづくりをお話します。

5.情報共有と人事・評価制度の連動

 情報共有は、受信側にメリットがあっても、発信側のメリットは少ないです。書き込む手間やまとめる手間などの物理的負担はもちろんのこと、できれば自分を優位にしたい業務テクニック・改善手法などを、公開するという心理的負担があります。

 これらの負担を「会社のため」「みんなのため」に行うべきだというだけで、モチベーションがあがるはずがありません。むしろ、行わない理由を考えるほうが熱心かもしれません。つまり、発信側を作り出す仕組みがないと情報共有はすぐに頓挫してしまうでしょう。

 既存帳票から導き出される情報であれば、システム化をして、できるだけ業務追加することなく情報発信できるようにすべきです。しかし、システム化しにくいもの(ノウハウや施工事例、失敗事例)などにおいては、個々人に、情報提供に対するインセンティブを与えることが必須だと思います。具体的には情報提供したことに対する人事・評価を制度化することです。

 単純な方法としては、

1・提供ごとに報奨金がおすすめです。どんな提供でも同じ金額にするのか、内容によって差をつけるのかは、方針によって決めます。情報提供をはじめたばかりの時・運用がうまくいかないときの打開策として報奨金を導入する場合は、あまり細やかな基準を決めず、ともかく提供すればいくらという単価統一がいいでしょう。数が増えたり、情報提供が慣習化してから金額を見直せばよいのです。

 金額の目安としては、提供対象があまり大きくなく、改善効果も小さいものが多い場合は、100円~500円ぐらいが適切です。金額は低くとも、確実に効果がでるはずです。効果が大きいものを対象とするならば、効果による利益増加分の1割~3割が目安です。もちろん、毎回効果計算をするのではなく、想定して一律の金額にしたほうが分かり易いわけです。

 「会社をよくするのは社員として当たり前だ」といって報奨金に反対する幹部の方がいます。 自らが発信側にならないからこそのセリフであることが多いので、こういうう方には、率先して情報提供してもらいましょう。すると、反対しなくなる可能性が高いものです。また、経営陣がこんなことを言う場合は、根本的に情報共有の価値を低く評価していることを明言しているようなものです。会社自体が情報共有推進には傾かないでしょう。共有メリットを会社全体で理解することが先決となります。

 さて、好事例や改善案など良いことを提供するのは、評価しやすいし、報償も提供しやすいですね。しかし、不具合事例や事故情報を提供させる場合はどうでしょう。報償金はもちろん出せませんし、評価もマイナスになりがちです。結果、ないしょ(隠蔽化)になるのは明らかです。このような場合は、提供によって、マイナス評価しないという方策が有効です。よく考えてみれば、不具合を形にすることで同様の不具合をなくすことができたり、事故原因を改善することで事前に事故が防止できるのです。ならば、それは共有メリットだとわかるはずです。ミスしたとはいえ、共有メリットを提供した人にさらに罰としてマイナス評価するのは、隠蔽化を助長するだけです。「罪を憎んで人を憎まず」ではないですが、自分の失敗をみんなに提供することで、ペナルティを終わりにする、それが当事者のみならず会社全体のためにもなるでしょう。どの程度までをよしとするかのさじ加減は難しいですが、好事例より最終的な共有メリットは大きいと思います。ぜひご検討ください。

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする