IT活用の進め方(その5)

 IT活用の進め方の最終回です。今までのステップで目的が明確になり、業務手順も明らかにでき、成熟度も把握した上で教育体制も整った状態になるはずです。外堀はほぼ埋まった状態です。あとは、本丸を攻めるだけでしょうか?

 まとめの意味もこめて、営業情報の共有を例に流れを確認してみましょう。

 ITは道具である意識を社員に持ってもらいます(「IT活用の進め方(その1)」)。つまり、ITを使えばなんでも出来るといった幻想、ITはドラえもんのポケットであるかのような意識を捨ててもらうということです。

 次に、目的を明確にしてもらいます(」「IT活用の進め方(その2」)。このと
き注意すべきなのは、本来の目的とIT活用の目的を分けることです。営業情報共有の目的として営業チャンスをできるだけものにする、機会損失を少なくすることを決めます。そこで、営業情報をできるだけ早く多くの関係者が共有できるようする仕組みを作りたいというのが、IT活用の目的になります。ここを混同すると、次のステップに進めません。

 次段階としては、
「どうせ営業情報を共有するなら、営業担当全員が顧客情報を見られるほうがよい」、
「ベテランが若手をフォローできるように電子掲示板をつくるべきだ」
など、実際の具体的な内容について話が出てきます。でも、そのような習慣や社内の仕組みがない場合が多いでしょう。「ないなら作ろう」となったとき必要となるのが、業務手順の明確化です(「IT活用の進め方(その3)」)。当然、業務手順を明確にする際に意 識する目的は、本来の目的であって、IT活用のほうではありません。つまり、この時点では、IT活用なしの選択肢も視野に入れるべきです。

 なぜなら、「メールを見る習慣もないし、掲示板に入力するのは手間だ」といった成熟度の問題が出てくるからです(「IT活用の進め方(その3)」)。最初は紙の回覧で情報共有の習慣づけから始めるとか、勉強会を実施してメールを見られるようにする、掲示板への入力を覚えるなどを行わなければなりません。極端な話、IT活用できるレベルでなければ、紙ベースの情報共有もありなのです。

 そして、重要なのは、これらを全社統一の意識で行うことです。つまり、一部の社員や経営陣が勝手にやっているのではなく、全社戦略の中のひとつの形として行っているということです。よって、営業に関わらない人もその動向を把握し、自分の業務や部署への展開を意識しなければなりません。成熟度レベルによっては部分最適になってしまうこともあるでしょうが、意識だけなら早い段階で全体最適にもっていくことも可能です。そのためには、社長自ら強いリーダーシップを持つことが大切で、このような業務改善を広く社内に浸透させる工夫も重要です。
 部分最適は新たな障害を生み出します。いっぽう、全体最適は簡単ではありませんが、意識をもって対応していけばできないことではありません。逆に意識がなければ、計画は絵に描いた餅です。常に全体最適の意識をもって、IT活用に取り組むことが、無駄な投資を省き、業務改善を正のスパイラルにもっていくポイントなのです。

 ITを活用する状態にするには、現状分析を行い、問題点を把握して、解決手法を見つけることが必要です。実に時間がかかり、回りくどい手順を踏まなくてはなりません。残念ながら、このようなことを説明してくれるITベンダーはほとんどありませんので、自社で気づいて検討していかなければならないのです。もちろん、現状分析のお手伝い・問題点を抽出するといったサービスはありますが、自
社がその重要性に気づかなければサービスを利用することもないでしょう。この「気づき」が一番のポイントなのです。なかなか得にくい「気づき」ですが、このメルマガを通して気づいていただけたら幸いです。

 国や県の制度で、これらの「気づき」を助け、アドバイスしてくれる専門家制度というものがあります。ぜひ、ご利用をお勧めします。