前回に引き続き、現場管理のレベルアップのためのIT活用についてお話しします。
ITを活用するためには3つの視点が必要です。組織的にITを活用するための制度や業務、ハード・ソフトの環境(基盤)、扱う社員のスキルです。これらを万遍なく底上げすることが管理をより負担少なくレベルアップするためのポイントです。
前回は3つの視点のうちのIT活用ができる環境づくりについてお話ししました。今回は社員スキルつまり人づくりについて、レベルアップ方法を説明します。
IT活用ができる人づくりは、一番大事なはずですが、なぜか後回しにされがちです。制度もあって、環境も整っているのにIT活用が進んでいない企業を多く見受けます。日本のIT環境は世界に冠たるものなのに世界トップのIT国家といまだに言われないのは人づくりに問題があるのではと思っています。
国も企業も制度や環境を整えれば、自然と人は成長するだろうと思っている感じがします。確かに制度や環境を整えれば、一部の人は成長するでしょう。しかし、それでは、IT活用は難しいです。一部の突出した人がいる状態ではなく、全体が少し上のレベルでいいのでIT利活用できる状態が必要なのです。情報は共有されて何ぼだと私は思います。つまり、少人数では効果が低いのです。
OAといわれた時代なら、転記業務や複写業務がなくなって効率化が目に見えてわかります。しかし、今は情報共有によって、経験を疑似体験したり、同じ失敗を本人だけでなく、会社全体でしないようにすることが求められています。つまり、システムの操作方法を習得するだけがスキルアップではなく、情報の利活用が求められているのです。ここが抜けている気がします。
いくらワードの操作に長けていても、議事録の上手な作成方法を知らなければ、議事録はただの会話記録となって、情報の価値が低下します。いくらエクセルの操作に長けていても、QC7つ道具のような図表の活用方法を知らなければ、わかりやすい品質管理資料作るのは難しいでしょう。ITをただのパソコンスキルと考えているだけではだめで、情報加工技術としていろいろ手法とセットで勉強する教育が必要なのです。
レベル0:パソコン好きが勝手にやっている
このレベルでは一部の人が独学してパソコンスキルや情報加工テクニックを身に着けている段階です。自分のためにはいいけど、ほかの人のために自分のノウハウを渡すなんて無理といった感じです。
次のレベルにいくにはその身につける時間を会社として認めてあげながら、仲間づくりを行えるようにしましょう。その点では推進役にする人はパソコンスキルが優れているより、少しスキルが劣っていても世話好きでメリットを共有したいおせっかいな人を選ぶことをお勧めします。できれば、メンバーも声が大きいというかおしゃべりさんを集めてください。情報共有はそのメリットを感じる側が声を大きくして、伝えることが大切だからです。
レベル1:一部の社員で勉強会が行われている
このレベルでは、IT利活用をしたいと思っている有志が自主勉強会をしながら、スキルアップをしている段階です。当然会社として、IT教育を体系立てているわけでもなければ、他の管理(品質や原価、安全、工期等)教育と一体で考えていません。
次のレベルには、企業全体として社員教育の一部にIT教育を組み込むことです。ここで注意してほしいのはパソコンスキル、ソフトの操作だけではだめで、KJ法やマインドマップ法のような情報整理術やQC7つ道具のような分析手法もセットで学ぶように考えてください。
「そんなこと、中小企業では無理だよ」といわれるかもしれませんが、最近はそのようなことを意識した書籍がいろいろ出ています。できれば、自社業務に連動したものがベストですが、そのあたりは先行した人たちが自社向けサンプルデータを作るようにしましょう。もう20年近く前のことですが、私も自社の業務にあったサンプルデータを用意して、勉強会を開いていました。ITに不得手な人ほどテキストに載っているサンプルでは業務に結びつくイメージがわかないのです。そこを取り除かないとITへの嫌悪や恐怖がなくならないと実感しています。
レベル2:企業としてIT教育の流れがとりあえずある
このレベルになると企業としてIT教育が社員スキルアップの一部として組み込まれており、学べる環境が整備されている状態です。とはいえ、学んだ結果、どの程度活用しているかは見えていない状態なので、IT利活用の効果が今一歩でもあります。
次のレベルにあがるには、社員のITスキルが評価される仕組みを考え、最低限の利活用ができるような支援体制を構築することです。支援体制と簡単に言いましたが、大きな企業でないと専任の支援スタッフを置くことは難しいでしょう。兼任スタッフだと主業務である仕事とのバランスでその人が参ってしまうことがあります。主業務の負担軽減や支援への報酬・評価をセットで考えてください。
スキルの評価も様々なIT資格取得だけでなく、改善提案のようなIT利活用提案を企業内で評価できるようにし、その結果を反映するようなことも大切です。何度も言いますが、操作スキルだけでは情報の利活用は難しいのです。
レベル3:社員のITスキルが評価され、支援体制がある
このレベルまでくれば、IT利活用は問題ありません。実際にここまで来ている企業は大きい企業を含めても少ないのではないでしょうか。(多ければ、日本がIT利活用が遅れているとは言われません)
次のレベルはもちろん、他と同様、関係企業への支援体制です。個人的には大きい企業は積極的に関係企業のITスキル向上を支援したほうがいいと思っています。そうすることで結果的に自社の業務効率があがると考えているからです。支援といっても、社内勉強会へのゲスト参加やサンプルデータの提供といったものからスタートすればいいです。これでも関連企業への影響は大きいです。専任の支援スタッフも1社では抱えらなくても複数社であれば可能かと思います。そのようなときの音頭取りを大きい会社がすることが望ましいです。
レベル4:自社だけではなく、関係企業への支援体制がある
このレベルの企業が増えれば、その業界自体のIT利活用レベルがもっと上がるはずです。パソコンスキル、ソフト操作ではなく、業務に溶け込んだIT利活用が学べる体制です。難しいと思いますが、できないことではありません。
業界に即した利活用がわかりやすく提供され、利活用をするための教育が容易に受けられる仕組み作りが業界ごとにきちんとできれば、きっと日本は変わ
ると思います。
最後は少し現場管理から外れた話になりましたが、現場は建設業の顔です。IT利活用で一歩上の現場をつくりましょう。