前回に引き続き、現場管理のレベルアップのためのIT活用についてお話しします。
ITを活用するためには3つの視点が必要です。組織的にITを活用するための制度や業務、ハード・ソフトの環境(基盤)、扱う社員のスキルです。これらを万遍なく底上げすることが管理をより負担少なくレベルアップするためのポイントです。
前回は3つの視点のうちの社内の仕組みづくりについてお話ししました。今回はハード・ソフトの環境、すなわちIT環境について、レベルアップ方法を説明します。
IT環境と言っても3つの要素に分かれます。ハード、ソフト、ネットワークです。ネットワークをハードに含める場合もありますが多種多様なネットワーク環境はパソコン本体やプリンタ等の周辺機器を含めたハード環境とは独立して考えたほうがいいと思います。
ソフトも本当は基本ソフトと応用ソフトに分けて、説明する必要がありますが、今回は概要だけにします。
レベル0:現場単位でのIT環境がない
現場用パソコンがない状態です。現場での記録も一旦紙ベースで記録したのち事務所に戻って電子化する状態です。最近はスマートフォンのおかげで添付ファイルの確認はできますが、必要事項を記入して、返信するまでにはいかない状態です。
電子納品が進んで、会社にパソコンがない状態はほとんどみかけませんが、デスクトップパソコンが主流のため持ち運びができない環境になっているところは少なくありません。今はほとんど差はなくなりましたが、以前はデスクトップとノートでは金額差が大きかったことと画面の大きなデスクトップのほうが作業性が高い点からデスクトップを導入することが多かったです。
レベルアップには、ノートへの移行かタブレットパソコンの導入を検討しましょう。会社の規模や現場でのニーズによって変わりますが、現場で資料作成ができることによる書類業務の負担軽減は大きいと思います。試験的な導入から始めてください。なお、ノートパソコンの拡張性を利用してディスプレイとキーボード、マウスだけを事務所側に追加購入して、デスクトップ並みの操作性も確保するという方法もあります。
レベル1:現場単位でのIT環境はあるがソフトもハードもバラバラ
このレベルでは、大きい現場を中心に現場監督のITスキルレベルに応じてパソコンが導入されているものの全社的な導入ルールがなく、ソフトも種類やバージョンが異なっている状態です。結果として、書類業務の時間が監督によって大きく差が生じています。
次のレベルに行くには、会社内で統一した導入ルールを決めましょう。ノートパソコンでも最近は10万円を切るようになったので、以前のようにリースでということも少なくなりましたが、基本ソフト(OS)のバージョンアップも踏まえ、4年を目安に全パソコンが入れ替わるような計画を立てることをおすすめします。「一回買ったら10年ぐらい使いたい」と経営陣から言われそうですが、ほこりの多い建設業で長い期間パソコンを利用することはかなり難しいです。むしろ、交換時期を早くする分、比較的安価なパソコンで済ませることをお勧めします。もちろん、ソフトも社内推薦ソフトとして、導入時期やバージョンをできるだけ合わせるようにしてください。
レベル2:IT導入ルールはあるが情報共有の仕組みが未完成
このレベルでは、パソコンは現場監督ごとに所有しており、ソフトも社内で統一化しているが、情報共有の仕組みやネットワーク環境が未整備な状態です。
このレベルアップは、会社規模や管理者のスキルによって費用対効果の差や管理負荷への耐性があるので、十分な検討が必要です。
全現場からのアクセス可能なファイルサーバー設置が理想ですが、維持管理は難しいです。最初はDVD-RやUSBメモリ、ポータブルハードディスクのようなもので共有することから始めましょう。
最近の低価格の通信を実現できるモバイルルーターを導入できるのであれば、オンラインストレージといったクラウドサービスを利用することもいいでしょう。メールのやりとり程度ならスマートフォンのテザリング機能や公衆無線LANを利用してもいいです。
いずれにしても、全監督にメールアドレスの配布は行うようにしましょう。発注者、元請とのやりとりはもちろん、情報交換に個人が特定できないのはよくありません。理想は独自ドメインによる配布ですが、まずはフリーメールサービスを利用して使い方に慣れてからでもいいと思います。ただし、個人と混在しないように会社用として改めて確保するようにしてください。
レベル3:全現場から共有できる環境がある標準化された状態
このレベルでは、各監督が社内ルールに従ったパソコンを所有し、なんらかのネットワークを利用して情報共有もできる状態です。結果として、電子書類の再利用がある程度進んでおり、現場の負担軽減がそれなりにできていると思います。
次のレベルは社外との共有です。協力業者にも書類作成に必要なデータをもらうことや図面データ、仕様書等の工事に必要な現場情報を電子データで渡したほうが書類作成の作業効率はあがります。
この際に利用するのはオンラインストレージサービスです。一定のセキュリティを考慮するなら有料のサービスを導入する必要がありますが、そうでないなら様々な無料サービスがありますので、簡単な導入マニュアルを用意して、協力業者に利用してもらいましょう。状況に応じてフリーメールの取得も依頼すると代表メール経由でのやりとりより効率がいいと思います。
レベル4:社外との情報共有も可能なIT環境
このレベルは、自社内でとどまらず、発注者、協力業者とも情報共有可能なIT環境が構築されている状態です。結果として無駄な転記作業や図面の再作成などの業務は最小限になり、電子納品も効率よく行える状態です。
このレベルは、前回も記載しましたが、建設業全体の底上げにつながるステージです。もちろん、会社規模によって影響を及ぼせる企業は限られるかもしれませんが、確実に建設業界の長い労働時間短縮に貢献できると思います。その輪が広がるように第1歩を御社が進めることを願います。