前回に引き続き、現場管理のレベルアップを各管理項目ごとにお話しします。
前回はE(Environment:環境管理)のレベルと向上方法をお話ししました。今回はN(Neighboring:近隣管理)の話をします。
今回の近隣管理は私の造語で、たぶん、他の方は使っていないと思いますが、第3者対策や近隣担当という言葉で現場では認知されていることがあります。
近隣管理とは現場周辺の発注者、関係諸官庁以外で生活や仕事に影響を与える方に対する管理です。具体的には、隣接家屋の住人の方や現場周辺を通学路とする小中学校(状況によっては高校、大学等含む)、町内会、売上に影響を与える可能性のある周辺店舗関係者などが対象者となります。工事が地下構造物の場合、井戸を所有している方も関係者と言えるでしょう。
町内会などはあまりピンとこない方もいらっしゃるでしょうが、集会等に工事進捗を報告して、騒音振動や資材搬入出への理解を得る、地域のイベント(祭り)等への協力(当日搬入禁止や一時的な迂回路設定)、地域清掃への参加、現場見学会の実施など現場運営を円滑に進めるためにコンタクトを定期的にとる必要があることも少なくありません。
特に現場見学会や進捗説明会は一現場にとどまらず、建設業のイメージアップ、偏見や誤解の改善にとても有効です。私個人としては派手なイベントをポツポツやるより小さい現場でも近隣のことを意識した工事をすることのほうが大切だと思っています。
工事規模が小さかったり、周辺に民家等がない場合は必要を感じられないと思いますが、街中や工事規模が大きいものは決しておろそかにすべき管理ではありません。不適切な対応は最悪工事中止や高額の慰謝料といった結果を招くことになります。
また、大規模な工事で土砂搬出や大量のコンクリート打設が行われる場合はその運搬経路にも注意が必要です。路線バスはもちろん幼稚園バスや介護関連の送迎などにも影響があるからです。現場周辺だけにとどまらないことが多いです。
関係者名簿(担当者、連絡先)や地域イベントカレンダーの作成進捗報告の掲示や回覧、苦情対応など工事担当者の裁量に任せるものではありません。組織的に仕組みを作り、対応していくことが望ましいです。
レベル0:管理なし
このレベルは近隣に対しての認知がほとんどない状態です。安全面で第3者災害防止を検討している以外は工事に対する周辺への影響はあまり考えていないです。
次のレベルへにいくには、近隣に安全以外でも影響を与えることを会社全体で認知し、啓蒙することから始めます。半年以上の工事ならば通学、通勤への配慮や近隣住民への挨拶など簡単なことからはじめてみることを勧めていきましょう。
レベル1:場当たり的な管理
このレベルでは近隣への配慮が状況によって必要であることが全社的に認知されているが、その対応や管理は個々の現場監督に任されているといった状態です。
次へのステップアップは、手順書や関連帳票の整備となります。具体的には、現場の規模や期間、場所によって、影響を受ける可能性のある関係者の一覧作成、接触方法や工事規模によっては進捗連絡会の開催方法といった手順、関係者名簿、苦情および相談記録簿などの参考書式作成です。
レベル2:手順がとりあえずある管理
このレベルでは書式や手順はあるものの全社的な管理や支援体制がない状態です。とはいえ、ここまでできれば近隣対策としてはいいレベルです。逆にいうとこのレベルまでできている企業は少ない印象を受けます。
次のレベルは他の管理同様、現場をバックアップする体制構築や教育実施となります。夜間や休日の連絡先として、現場任せにせず幹部クラスにも連絡を取れるようにすることや着工、竣工時や中間検査時に、発注者だけでなく、近隣にも幹部クラスが挨拶する等で会社全体で近隣にかかわっていく姿勢を見せるような支援です。連絡体制は安全管理でも同様のことなので別途で体制構築というのは不要だと思いますが・・・。
レベル3:標準化された管理
このレベルになると全社的に現場での近隣管理ができており、組織的な対応もできている状態です。
次へのステップは他の管理同様、好事例不具合事例の共有による現場好感度UPへの対策です。特に不具合事例では具体的な影響に対して金額的なこともできるだけ明確にし、影響を見える化することが大切だと思います。
レベル4:継続的な改善のある管理
環境管理でも記載しましたが、このレベルになると積極的な地域への関与により、建設業に対する地域ひろくは社会への意識改善も視野に入れていくことになります。工事の重要性や危険性、地域への影響を正確に適切に丁寧に近隣に伝えることで不安や不満を最小限にすることが管理の最終目標です。
建設現場は3K(きつい、きたない、きけん)であることはこれからもなかなか変えることはできないと思います。しかし、建設は社会に必要な仕事であることが認知されていない状況を改善することは可能です。なかなか工事費として認めてもらうことができないため、利益を削ることになるとは思いますが、次世代の担い手のためにも建設業界の正しい理解をしてもらえるきっかけをつくる近隣管理はぜひ行ってもらいたいです。