今回から財務管理についてお話しします。今回は建設業の財務の特徴からお話しします。
大きな特徴は商品・製品に当たる工事が場所も規模も工期(製造業でいうところの生産リードタイム)がバラバラということです。建設会社の規模や業種によっては規模・工期が大きな差がない場合もありますが場所が違って、屋外という点は変わりません。契約書も大きな金額でかわすので印紙代が多いのも特徴かもしれません。
バラバラということは売値である請負金額も原価も毎回異なります。そのために製造業で一般的に利用される総合原価計算では利益把握は難しいです。オーダーメード型の個別原価計算で行う必要があります。
また、工事はプロジェクト型であり、始まりと終わりがあります。(製造業では年度区切りはあっても、終わりではない)そしてその期間が長期間だと数年にわたることもあり、工事が終わるまで売上と費用を損益計算書に計上しないことがあります。(貸借対照表にのる)つまり、財務諸表と実際の支払状況の整合性をとるのがとても大変です。(年度内に終わる工事ばかりであれば、棚卸もしなくていい分、製造業より楽かもしれませんが・・・)
工事の内容にもよりますが、下請業者や材料業者が毎回異なることもあり、支払方法(手形・現金)や支払時期がバラバラで管理も難しいです。請求先になる発注者も年度ごとに異なることもあり、請求方法も請求時期もバラバラです。公共工事に関しては年末、年度末に工事が集中することもあり、閑散期・繁忙期の差が大きく、財務のベースを作る経理も大変です。
勘定科目も建設業専用のものがあります。具体的には貸借対照表ですと
完成工事未収入金(売掛金)
完成工事高に計上した工事に係る請負代金の未収額。
未成工事受入金(前受金)
引渡が完了してない工事で完成工事高に計上してない額。
未成工事支出金(前渡金・仕掛品)
引渡を完了してない工事に要した工事費・材料購入・外注のための前渡金・手付金等。
工事未払金(買掛金・未払費用)
工事の未払い額
損益計算書ですと
完成工事高(売上高)
工事が完成し、引き渡しが完了したものについての最終総請負高。
完成工事原価(売上原価)
完成工事高として計上したものに対応する工事原価
完成工事総利益(売上総利益)
完成工事高から完成工事原価を控除した額
です。かっこの中に入れたのが一般的な勘定科目です。
工事は最初に請負金額を決めますが実際に請求できるのは工事が終わった後で、しかも材料業者や外注業者には月単位で払っていく必要があります。結果として、その間の資金繰りを金融機関等からの借入金で賄う必要があります。支払利息が大きく、営業利益はプラスでも経常利益でマイナスといったことがよくあるのも建設業の財務の特徴です。つまり、建設業での収益は必ず支払利息も含めて考えていく必要があります。
もちろん、大きな工事では、全額竣工後の支払というわけにはいかないので前払金・中間金(建設会社側としては前受金)といった形で事前や途中でお金をもらうこともあります。自然相手の仕事なので、工期変更や工法変更、追加工事もよく起こります。結果として当初の請負金額とも支払金額とも違う金額が竣工(工事完了)になることも少なくありません。このようにいろいろ業界の特徴があることから建設業経理士と呼ばれる専門の資格もあります。
建設業の財務で重要な基準として工事完成基準、工事進行基準があります。
工事完成基準はその名の通り、工事が完成後、引き渡してから収益を確定する基準です。実現主義という会計ルールからしてもわかりやすいですが、先ほどお話しした複数年またぐ工事だといつまでも利益が見えてこない不安があります。
工事進行基準は工事の進行状況を踏まえて、年度の区切り単位で工事進捗率を判断し、完成分の工事高と工事原価を確定させる方法です。手間はかかりますが、現実の支払い状況と年度単位では一致させることが可能なため、本当の財務状況を把握しやすいです。
なお、法人税第64条において、長期大規模工事(工事期間が1年以上でかつ政令で定める大規模な工事であることその他政令で定める要件に該当するもの、具体的には請負金額10億円以上)は強制的に工事進行基準を適用することと決まっています。(他にも条件があり、上記工事でも適用が外れる場合もあります)
なかなか複雑な環境ですが、製造業のオーダーメイド製品と同様決められた工事期間で目標物を建設するために必要な費用(工事原価)を算定し、実行予算とし、これを適切に管理したうえで個別の目標利益を確保する仕組みを構築できれば財務状況をきちんと把握することはできます。次回以降でその詳細をお話ししていきます。