引き続き、財務管理についてお話しします。今回は年度越え工事の管理いわゆる施工中工事の損益管理についてお話しします。
以前もお話ししたように建設業では、工事完成基準と工事進行基準という2つの基準で損益を確定させます。長期大規模工事(工事期間が1年以上、請負金額10億円以上)は強制的に工事進行基準が適用になりますが、それ以外の工事は原則は工事進行基準ですが、収益に信頼性がない場合は工事完成基準を適用できます。
国際会計基準も最近の推奨も工事進行基準ですが、中小の建設会社ではなかなか管理が難しいと及び腰です。つまり、収益に信頼性をもたせることができないのです。結果としてほとんどの企業が工事完成基準を適用し、年度をまたぐ工事については、収入は未成工事受入金、支出は未成工事支出金とした貸借対照表に送り込み、損益計算書からはその工事は姿を消します。結果として、本当にその年に行った工事実績は見えない状態になり、年度ごとで凸凹とした売上高になるのです。公共工事は単年度主義であることも後押しとなり、なかなか進行基準の採用は難しいです。決算期を3月末でなく、5月や6月にする建設会社が多いのも年度末工事の実際の収支が確定してから決算をし、ほとんど仕事のない4月、5月を利用することで工事完成基準でも工事実績をできるだけ実態に近い形にしたいと考えからだと思います。
しかし、公共事業の閑散期、繁忙期の改善による工事価格の安定や建設業界での就業者定着のために単年度主義の見直しが進められています。すぐにではないかもしれませんが年度をまたぐ工事は増えてくると思います。もちろん、民間工事では既に年度を意識していない工事は増えてきており、先ほどの5月、6月を決算期にしている企業でも実態が把握できない状態が起きています。
つまり、中小建設業でも工事進行基準での管理を行える準備を進めていく必要があると思います。理想は各工事を毎月進捗度管理することで出来高と支払高を確定し、工事収益を見える形にすることです。そのためには出来形査定を確実に行うだけでなく、材料の先行購入や外注などの労務管理などもきちんと行っていく必要があります。比較的規模の大きい建設会社では当然実施しています。そして、工事進行基準を採用するというとどうもこの理想を実現しなくてはと思うようです。
しかし、財務管理の視点から考えると進行基準の対象になるのは年度末に工事がかかるものだけでいいはずです。すべての工事を細かい管理をする必要もなければ、年度をまたぐ工事も毎月管理するのが必須というわけでもありません。要は年度をまたぐ工事が年度をまたぐ時にどれだけの進捗度かを把握できればいいのです。その1点のタイミングで進捗度を把握できれば、年度ごとの収益は非常にわかりやすいものになると考えます。
前述したように工事としては強制適用対象工事以外はどちらの基準も選べます。小規模工事や年度内工事まで進行基準で管理するのは財務管理的には意味がないです。(原価管理的にはとても大切ですが・・・)年度またぎの工事だけに絞って管理を確立することだと認識してください。
さてここで重要になるのが工事の進捗度です。進捗度は通常、原価比例法が使われることが多いです。原価比例法とは工事原価総額と決算までに発生した工事原価の比率で進捗度を求めるものです。工事原価総額が4億円で、2億の工事原価を既に支出したのであれば50%の進捗度という意味です。つまり、キーになるのは原価の把握ということです。
原価管理が適切に機能していれば、簡単に算出できます。もし、機能していなくても、対象となる工事のみ少し手間をかけて原価を把握することができれば可能です。具体的にいうと年度末の支払いだけその工事の支払総計を出してもらえるように材料業者、外注業者に依頼をかけておくことと自社での経費や労務費を対象工事のみ累計する仕組みを用意しておくことです。
手間はかかりますが、自社の実力、収益性の把握には必要不可欠だと思います。まずは一つの工事からでも始めてみてください。