引き続き、財務管理についてお話しします。今回は全体の工事原価管理についてお話しします。
財務管理として第1歩は、建設業の最大の特徴である個別工事原価を把握することによる全体工事原価、一般のところでいうところの売上原価の把握です。個別原価管理できない小規模工事も含めた原価管理であるところがポイントです。
工事原価は、理想としては全工事を工事ごとに
・詳細な施工計画・工程表および実行予算の策定
・実効性・採算性の高い材料・労務・外注の調達
・各月の詳細な出来高・未払管理、請求管理、追加変更管理
・竣工後の予実照査と歩掛整理
を実施できれば、精度の高い売上原価を把握することが可能です。しかし、現実的には手間をそこまでかけられる時間も人員もいないため、管理レベルをいくつかに分けざるを得ません。具体的には、
・実行予算を詳細に策定し、各月で精査する重要工事
・実行予算を簡易に策定し、支払管理のみの一般工事
・予定利益率で予算を決め、支払管理のみの諸口工事
という分け方で管理レベルに差をつけます。基本的には工事請負金や工事期間で分類し、大きい工事ほど重要工事としますが、小さい工事でも難工事や赤字の可能性が高い工事も重要工事とします。
諸口とは、複数の支払用途を含むといった意味ですが、建設業では小規模な工事を複数まとめて管理する際に使います。○○地区諸口工事とか、△△分野諸口工事、◇◇担当諸口工事といった感じでまとめることになります。
中小建設業で一番扱いが決まっていないのが、諸口工事です。どこから諸口とするかという基準がないため、漠然と一般工事と同様、予算をたてて管理をしようとしますが、担当の負荷が大きいためにきちんと管理できず、かえって結果把握が遅れるといった事態に陥っています。結果として小規模工事の支払把握ができていないために月単位での全体原価がわからないといったことになります。
財務管理としては、いくらもらえて、いくら払うのかがわかることが優先ですから、個々の工事の出来不出来は重要ではありません。管理を簡素化してでも早く把握することが大切です。ここは現場管理とぶつかるところですが、自社の組織・社員の成熟度に応じて、落としどころを決める必要があります。
一般的には工事期間が1月未満もしくは数か月の短いもの、工事規模の小さく、内容の変化がなさそうなものを対象として合算します。担当者ごとでまとめるのが管理がしやすいですが、同じ工種のほうが利益率が近いので工種ごとにまとめている企業もあります。
こうしてまとめた諸口工事も含め、全体工事の原価を一覧表として作成します。財務管理として資金繰りも念頭におきますので、工事中だけでなく、竣工しても支払が完了していない工事はもちろん、着工前でも準備で支払が発生しそうな工事も対象とします。このあたりは、営業・現業・内業の情報連携がきちんとできないと取りこぼしが出てくるので、最低でも月に1回の情報交換は不可欠です。
一覧表では、諸口工事は1行で表し、全体的な月単位でのお金の動きがわかるものとして用意します。営業視点だと発注者名が必要だったり、現業視点だと現場住所や支払先等が必要だったりしますが、財務管理の視点では、工事名、工期、請負金額、実行予算、支払金額といったものがあればいいので、必要なものだけに絞り込むか、エクセルのグループ化で折りたためるようにするなどの工夫をして見やすくしましょう。
一覧表作成も支払実績がそろってから作成するのが精度が一番高いのですが資金繰りのことを考えるとそうも言ってられません。できれば、請求書の段階、理想を言うと材料費は納品書、労務費は月報が出た段階で契約単価から金額を算定することにより早い段階で大枠を把握できるような仕組みが望ましいです。その点も踏まえて支払先の請求書はいつまでに経理に提出すること、納品書は必ず現場と別に控えを週ごとに経理に提出するといった基準・手順が必要だと思います。
請求(前受金、中間金、精算金)側も時期をわかりやすくして、入金漏れのないようにすることと入金までの間の不足金をわかるようにしておく必要がありますが、あまり複雑にするとかえって見にくくなるので、支払ベースと請求ベースは別に分けることをお勧めします。