好事例・不具合事例の作り方

 今回は会社に眠る暗黙知を形式知に変えるお話をします。

 いきなり堅い言葉で始まりましたが、暗黙知とは個々人の体験や職人の勘など言葉で表現できていない知識のことで、形式知とは文字や図表によって表現された知識のことです。

 前回、「文字化する文化を育てる」というお話をしましたが、有効なITシステムを導入するためには、この暗黙知をどれだけ形式知にできるかがポイントになります。

 例えば、ベテランでしかわからなかった気配りを手順としてあらわすことで例外処理が標準化されシステムがより大きな範囲の業務をカバーできることがあります。一般的な標準工程でシステム化しても現実と乖離していて、うまく動かなかったことが経験や現場の工夫を形にし、自社ならではの工程にすることで現実的なシステムになることもあります。

 しかし、なかなか暗黙知を形式知にするのは難しいです。その練習として私がおすすめしたいのが事例作成です。事例作成は小さなことでも大きなことでもかまいません。要はもやもやとした現場や職場のいいこと、わるいことを形にすることで、暗黙知を形式知にする練習ができ、かつ、水平展開できることで会社力のアップにつながるというものです。

 建設業であれば、安全や品質での不具合事例が筆頭にあがるのではないかと思います。特に安全の不具合事例は事故や災害に直結することも少なくないので、社員の命を守るという点で非常に役に立ちます。この際にできれば心がけたいのは不具合を発生させた現場や担当者を責めないようにすることです。そうしないと事例は出てこなくなり、せっかくの再発防止の芽を咲かせることなく、摘むことになります。

 また、事例は文章だけではなく、イラストや写真を使うようにしてください。特に指摘時の写真と是正時の写真が同じアングルで撮影されて、横に並べて形で帳票になると説得力は数段増します。人が関係するものはイラストで代用することでムリなく、わかりやすくすることができます。写真撮影が難しい不具合事例でもイラストで表現することで現場の雰囲気が伝わりやすくなります。

 「イラストなんて上手に書けない」という方も多いと思いますが丸と線で書かれたいわゆる棒人間でも文章よりはずっとわかりやすいと思います。市販されているイラスト集を利用するのもいいかもしれません。

 好事例は改善事例という表現で品質向上や工期短縮、費用削減といった形でまとめられることが多いです。ただ、安全でも全現場に展開したくなるような上手な仮設通路や安全柵、標識や安全看板などもあります。

 ただし、不具合事例と違って、なかなか出にくいのが事実です。日本人特有の奥ゆかしさなのか、出る杭は打たれるのをいやがるのかわかりませんが、自発的には難しいようです。そこで、安全パトロールや品質パトロールの中で好事例を見つけることを積極的に行うような仕組みづくりをすることをおすすめします。パトロールというとついつい悪いところを指摘されるだけの嫌なものになりがちですが、いいところを見つけるものにすることでバランスがとれるようになります。

 このいいものを見つける工夫としてパトロールに若手や事務方など知識や経験が少ない人をつれていくことがあります。ベテランや専門家だけだとついついいいことは当たり前という感覚になりがちで見つけることができません。若手や未経験者はその点素直にいいと思うことを出しやすいです。できれば、パトロール時に3つは見つけることといったルールを決めて、いいこと探しをすると小さなことでも拾いやすくなると思います。机の上手な整理の仕方とか単管の片づけ術など小さなことでもみんながやれば大きな効果が上がるものもあります。小さなものでも有効なことを示すような例を伝えるとより効果的かもしれません。

 いいことは水平展開もさることながら、そのがんばりを評価してあげるのも大切です。FACEBOOKのいいねボタンのような評価ができる仕組みを作れると評価もあつめやすいのではないでしょうか。評価が集まった好事例を年度単位で表彰するのもいいですね。

 不具合事例にしても好事例にしても水平展開することで次の暗黙知を生み出すきっかけになります。そして、その暗黙知を形式知にするという繰り返しで会社が変わってくるのです。

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