前回は原価管理の基本として、その目的をお話ししました。今回は原価計算のもとになる原価の意味や概念の説明をしていきます。
2.原価の意味と概念
そもそも原価とはなんでしょう。原価計算基準によると、
「原価とは、経営における一定の給付に係わらせて把握された財貨又は用役の消費を貨幣価値的に表わしたもの」
と書かれています。難しい言葉ですが、要は会社を経営するために生産した商品・サービスを提供するために会社で準備し、使用したお金という意味です。会社では生産するだけではなく、株の売買などで得られる金銭もありますが、これらは原価には含まないということです。また、正常な状態での経営活動での貨幣価値で判断するので異常時の減少は含まないとも書かれています。
堅い言葉ですが、原価管理に深く携わった方ほどなるほどと思われる文章だと思います。初めての方は漠然と「原価って、要は生産や販売などに関係して会社で使ったお金のこと」なんだという理解をしてもらえればOKです。
さて、原価管理に少し携わってくるとつい「そんな製品ごとの細かいお金なんか把握できない」とか「ひとまとめで買った材料費を工種別に記録するなんて無駄」なんてことを言われる方が少なくないです。確かに支払われた金額を単純に材料費として把握するだけなら税務上も必要なのでやると思いますが、それを製品別や工事別など使った内容別に細かく記録は大変な労力が必要です。
そこで、原価計算基準では原価計算の概念といった形で2つの原価を紹介しています。
一つ目は「実際原価」です。これは字のごとく、財貨の実際消費量をもって計算した原価のことです。ただし、本当の消費した金額だけでなく、原価を予定価格等をもって計算しても、消費量を実際によって計算する限り、それは実際原価の計算であると書いてあります。つまり、予測でこうなるだろうと決めた単価と実際の消費量で出した金額でも実際原価として取り扱うということです。このあたりが税務上の考え方とは少し違うことがわかると思います。
二つ目は「標準原価」です。これは財貨の消費量を科学的、統計的調査に基づいて能率の尺度となるように予定し、かつ、予定価格又は正常価格をもって計算した原価のことをいいます。簡単に言うと実際支払った金額ではなく、基準や推定値を用いて計算することで出す原価のことをいいます。
少し具体的に言うと過去の実績をもとに商品ごとの使用量で比例配分したり、労働時間の比率などで分配したり、業務手順から基本単位を決めたりして作った消費量に平均的に支払っている単価を計算して出した標準単価をかけて出す原価のことです。
統計的な考え方や作業手順を明確にして、内容を積み上げるなど手間がかかるように見えますが、20mmの商品は10mmの倍といった論理的な推定を行うことで簡単に計算できるような仕組みをつくることができます。そのため、実際原価よりも一度仕組みを作ってしまうと運用は楽です。また、生産効率の向上も考慮してこうありたいといった目標原価も「標準原価」として取り扱ってよいと書かれています。
つまり、自社の社員レベルや把握したい精度におうじて、簡略化した仕組みで原価管理を行うことができるのがこの「標準原価」という概念です。もちろん、現実と乖離しすぎるのは意味がないので定期的(半年もしくは1年間)といった期間を決めて、実際の支払金額と比較して修正するといった作業は不可欠です。ただし、その際でも全部を比較するのではなく代表的な製品、工事で比較することで補正係数(実際原価は標準原価の1.2倍)といったものを算定し一律で補正するような仕組みで対応します。
大切なことは原価管理は正確さを要求する場合もありますが、販売価格算定や予算管理など目的に応じてその精度や正確さを調整することができるということを理解することです。