原価管理の基本(その9)

 前回は損益分岐点のお話をしました。今回は、標準原価と原価差異分析についてお話しします。なお、原価計算基準の流れでいくと原価の部門別・製品別計算や販管費の計算になるのですが、ここはまた別の機会にご紹介します。

7.標準原価・原価差異分析

 標準原価は、以前お話ししたように実際にかかったものを集めた実際原価とは異なり、基準や推定値で算定する原価のことです。通常、原価管理では標準原価を用いて管理を行うことが多いです。なぜならば、逐次変化する材料価格や契約条件によって異なる労務単価・作業時間を毎回反映するためには仕組みが複雑で時間がかかるためです。

 標準原価は一般的には単価を固定し、数量を計測し、その掛け算で原価を算定します。直接費はこのパターンで計算しますが、間接費は各工事・商品などにどの程度かかわっているかが数量であらわしにくいのでこのパターンでは計算できません。そこで、間接費は直接費に対する一定の割合(標準間接費配賦率)を決めて算定します。関係する直接費の合計に配賦率掛けて間接費を算定するのです。

 つまり、直接費にかかわる材料や労働時間等数量を集計することで、間接費も含めて原価の算定が可能になります。

 標準原価で管理することで予算算定もすばやくでき、一定期間の単価が均一になることで数量管理がそのまま原価管理になります。結果として出来形=出来高のような仕組みで比較的簡易な手法でも管理ができるのです。

 しかし、支払った額と標準原価は異なることが多いです。そのため、実際原価と標準原価の差を定期的に把握する必要があります。これが原価差異分析です。

 よくある手法としては1年間に1回、決算期前に実際原価を集計し、標準原価と比較することです。この際、品目数や工種が多い場合は特定の影響度が高いものを抽出して行うこともあります。

 一般的には個々の製品、工事単位で行うのではなく、勘定科目単位で総額を比較します。標準原価は個々のプラスマイナス要因を平均的に扱うことによって全体的な傾向から設定する必要があるためです。ただし、単価が減少傾向にあるとか増加傾向にあるとか一定の傾向がみられる場合は、その影響を反映し標準原価に最大値を採用することがあります。

 また、世界情勢も踏まえて、金額が大きく変動している材料については1年間ではなく、月単位での分析をすることもあります。特に建設業の場合は賃金または物価の変動による請負代金の変更いわゆる全体スライド、単品スライドといった影響をうける工事があるので、契約時期や支払時期がとても利益に関係するからです。

 原価差異分析は単価だけではなく、数量側でも行います。例えばコンクリートは型枠のふくらみや鉄筋量等を考慮し、ロス率を見込んで数量を出します。単価に含ませること(3%のロス率の場合、単価を3%増しにする)が多いため、つい数量管理をおろそかにしがちです。しっかりと実際の打設量と設計量を比較し、所定のロス率との整合性を確認します。同様に標準使用量が決められている材料は定期的にその実際使用量を測定し、差を確認することが大切です。

 以上のような分析を行うためには、主要品目、主要工種や今年度調査品目といった形をあらかじめ社内で決めておき他より精度の高い原価管理ができるように数量管理や単価管理を行います。制度をつくり、計画と実践、分析、修正といったPDCAが回らないと原価管理は意味を失います。

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