原価管理の基本(その5)

 前回に引き続き、実際原価の計算について個々の費目ごとに説明していきます。

4.実際原価の計算方法

(2) 労務費

 材料費の次に重要なのは労務費です。オートメーション化が進んでいるとはいっても人間が関与しない製品はほとんどありません。しかし、材料費同様、一人の人間がひとつの製品に直接かかわっている時間が把握できているわけでもありません。そこで、実際には下記のようなステップを踏むことで労務費を算定します。まずは、作業者単位での賃率を計算します。

 直接作業者の賃金 ÷ 直接作業時間 = 直接労務費の賃率

 賃率とは単位時間当たりの作業者賃金のことで簡単に言うと時給(単位によっては分給)です。この時注意しなくてはいけないのは複数の異なる賃金の作業者が携わっているときはある程度按分した平均賃率を出す必要があるということです。職長と職人、機械操作員と一般作業員といった形で職務給や能力給が異なる作業員がいっしょになって作業を進めている場合がほとんどです。高めに見積もるのであれば、高い人に合わせるという方法もありますが、実際原価である以上できるだけ人数比率や関与時間などを考慮した賃率にすることが望ましいです。

 次に実際の作業時間を測定したうえで上記の賃率をかけます。

 実作業時間×賃率=直接労務費

 ただし、実際には多品種少量生産や複数業務向けのクレーンの荷卸し作業をのように、単純な実作業時間がつかめないこともあります。その場合は、一定時間当たりの製品量や運搬量をもとに重量や数量で按分することになります。

 いずれにしても、実際原価を出すためにはできるだけ正確な実作業時間を把握する必要があります。この際に注意すべき点は稼働率です。忙しいときと余裕があるときでは当然作業量は異なります。実際原価である以上、その双方を正確に測定できることが望ましいのですが実際は、ある期間での作業時間を基準として、単位数量当たりの作業時間を求め、製品数量や仕掛品数量、設置数量など数えやすいもので全体作業時間を算出することになります。

 そのため、その期間の稼働率が標準的な状態であるかが重要なポイントとなります。繁忙期と閑散期で作業量に大幅な違いがある場合は双方を測定し、全体的な業務の変化状況を考慮して標準的な作業時間を算定する必要があります。

 工事の場合は積算要領などに標準的な人工(作業時間)が定められていることもありますが、実際原価を把握する際にはあくまで参考として利用し、実測をするように心がけるましょう。

 上記のような手順で直接労務費が算定されたのち、間接労務費を算定します。間接労務費は主に直接生産にかかわっていないが生産を進めるうえで必要な補助作業を行っている人たちの労務費をさします。しかし、直接生産にかかわっている人でも、修繕や運搬、清掃など実作業時間に含まれていない時間によって生じる費用は間接労務費の中に含まれなければなりません。

 この点を見落とすと総人件費と労務費合計(直接労務費と間接労務費の和)に差が出てくることになり、原価を安く評価してしまう要因になります。また、賞与や社会保険料等の法定福利費、退職給付引当金繰入額なども間接労務費として算定する必要があるのですが現場のみで集計するとこのような項目も見落としがちになります。

 労務費に関しては、人事関係者から十分な情報をもらったうえで漏れがないように人件費を反映させることがポイントとなります。

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