在庫管理(その14)

 前回に引き続き、在庫管理についてお話をします。今回は在庫差異の話です。

 前回まで在庫の評価方法の話をしてきました。様々な評価方法をご紹介しましたが、前提条件としてとても大事なことがあります。それは在庫数量が正しいということです。

 当たり前のように感じますが、現実は在庫数量がきちんと把握できている中小企業は意外と少ないと思います。逆にいうと数量がきちんと把握できていないために管理も分析もうまくできない状態になっているところが多いです。把握できないだけでなく在庫の把握そのものを諦めている企業もあります。

 帳簿上の在庫数量と実際の在庫数量が異なることを在庫差異といいます。棚卸とよばれる実際在庫の数量確認作業を行った際にわかることから棚卸差異と呼ばれることもあります。つまり、この差異を見つける作業が棚卸作業です。

 棚卸作業は一般的に量によって年1回から月1回程度行われ、帳簿在庫数量を印刷して、実在在庫数量との差異を順番に確認していきます。最近は携帯端末にシステムによる帳簿数量を表示させ、その場で数えた在庫数を入力していることも多いです。無償で利用できるWebベースの表計算を使えば、簡単にできるうえにその場で差異計算もできるので、専用端末でなくてタブレットやスマホでもすぐにできます。システムデータが利用できるのであればこちらをお勧めしています。

 棚卸作業の範囲は在庫数量によっては、すべての在庫を確認する一斉棚卸だけでなく、循環棚卸と呼ばれる複数回に分けて棚卸を行う場合もあります。できれば倉庫単位では一斉棚卸で行うことが望ましいです。

 在庫差異が日常化するとどのようなことが起きるでしょうか。まず、あるはずの在庫がなくて、利用者(もしくは顧客)に迷惑をかけることがあります。次にその補充を行うために追加発注や自社製品であれば追加生産ということになります。さらに在庫が増える理由の時もお話ししましたが、差異を見越して不足を恐れて余分に在庫を持つようになります。結果として在庫を増やすことにつながってきます。さらにその余分な在庫が管理を難しくさせ、今以上の差異を増やすという悪循環が起きるのです。

 在庫差異のなぜ発生するのでしょうか。理由はいろいろありますがよくあることをいくつか紹介します。

 まずは倉庫自体の整理整頓ができていないことでどこに何があるかわからないという理由です。個々の担当が便利なように同じ材料・商品を2か所以上に分けておくとか、担当の都合で毎回違う場所に置くとか奥までもっていく時間がもったいないから仮置きという位置づけで安易に倉庫の手前ばかりに置くとかいうような作業がますます拍車をかけて倉庫内を乱雑にしていることが多いです。

 次に台帳やシステムへの記入タイミングがずれている場合です。これは数時間といったレベルであれば、朝一番の在庫数量以外は入出庫があるので仕方ないと割り切ることができますが、実際は数日もしくは記入忘れという状態になることが多いです。特に不良品・廃棄処理、緊急出荷、一時的な持出といった作業後の処理が忘れられてそのまま差異になっているケースです。誤出荷(数量ミス、商品ミス)で返納された材料・商品の処理忘れもよくあります。現場の場合、資材が不足したら困るからと多めに持っていき、使い終わった後で返納した分を記載していないことも少なくありません。

 次は現物確認に関連するミスです。現物を確認せずに伝票のみを信じて入力するために伝票ミスがそのまま差異になってしまうことがあります。また、伝票の読み違い、取違いもありますし、数量確認の際、複数人で行うと聞き間違い、言い間違いもあります。さらに台帳記入・システム入力ミスや転記ミスもあります。

 最後に意外と忘れがちなのですが、棚卸業務そのものでのミスもあります。数え忘れや数え違い、入力時ミス、転記ミスや集計ミスなどもあります。

 上記のほとんどがヒューマンエラーですが、手順や基準が不明瞭だからという原因も少なくないです。怖いのがこのような差異の理由を突き詰めず、対策も取らず、差異をそのままシステムや台帳に反映させ、放置していることを気にしていない意識や状態です。

 差異はなくすべき存在で、そのためにその原因を見つけ、対策をとるように全社的に意識付けすることが一番最初で一番大事なことだと思います。そのうえで上記の原因をなくすための対策をとっていかないとどうしてもその場しのぎ的な対応になってしまうことが多いです。そうならないようにみなさん注意してください。

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