建設業におけるクラウドサービス(その5)

今回も引き続き建設業におけるクラウドサービスについてお話しします。今回は具体的なサービスの利用例についてお話しします。

建設業は建設現場という一時的な期間で特定できない場所で仕事をする業種です。そのため、情報を記録する場所(現場)と情報を参照する場所(事務所)を一緒にできずに苦労することが多いのはみなさんも知っての通りです。

一昔前までは現場からの情報発信としてパソコンにインターネット回線を引いて、電源も整備してと準備にお金と時間がかかっていました。また、専用ソフトやメールなどのやりとりなどソフト環境もそれなりに手間がかかるものでした。しかし、ここ数年ですっかり様変わりしました。

低価格な通信契約のSIM(通信カード)を内蔵したタブレットや同様な契約をしたモバイルルーターと長時間バッテリー稼働が可能なノートパソコンの組合せでほとんど準備が不要な状態で現場で情報を記録を取りながら、事務所へ情報を送信できるようになりました。大型なスマホでも情報量によっては十分対応可能でしょう。

クラウドサービスの利用でソフトの準備する必要がなくなりました。当然、双方向でのやり取りも可能になり、確認待ちや指示待ちによるロスや手間が大きく減らせることになります。

では、具体的な利用例としてまずはオンラインストレージでのデータ共有をご紹介します。

1.オンラインストレージの現場利用

(1) 主な目的

現場では様々な記録を残す必要があります。具体的には

・コンクリートや鉄筋、各種資材の品質記録
・各工種における作業日報等の労務記録(賃金に連動)
・足場組立、鉄筋組立、型枠組立といった各種作業の進捗記録
・安全巡回記録
・産廃処理や汚濁対策等の環境記録

などいわゆるQCDSEに関する記録です。

これらの書式はエクセルやワード等で作られていますが、従来は現場で鉛筆等でメモを残したのち、事務所に帰って清書するように電子化していました。負担感もそうですが、帰ってからの作業は長時間労働の最大の要因にもなっています。

タブレット・スマホもしくはノートパソコンとオンラインストレージサービスを組み合わせることでその場で電子記録を残すことができ、2度手間や転記ミスをなくせます。事務所に帰ってから作業しなくていいと思った解放感はなかなか大きいです。

(2) 準備内容

通信ができるタブレット・スマホ、ノートパソコンとオンラインストレージサービスと電子帳票の記入するために必要なソフト(エクセル、ワード)の準備で完了です。

オンラインストレージサービスは特に希望がなければ、DropboxかOneDriveのいずれかのサービスがお勧めです。Office365を契約しているのであればOneDriveで準備を進めてください。

(3) 利用時の注意

単にオンラインストレージサービスで既存帳票を電子化し共有するだけでいいというわけではありません。タブレットやスマホなどタッチパネルでの入力に見合った帳票にすることが望ましいです。

具体的にはエクセルであれば

・データの入力規則を利用した簡易な入力支援
・条件付き書式を利用した入力チェック機能
・コード入力とVLOOKUP関数を利用したマスター参照
・小さな画面でも見やすいような文字配置
・電子帳票ならではの電卓不要の計算式入り

といったことです。特に複雑な計算が必要な品質書類や集計が必要な労務記録などは電卓で打ち間違いを気にして、念のための何度か見直し計算をすることを考えると大きな時間短縮になります。コンクリート打設時の残数量が簡単に計算できるとか感動ものです。

エクセルを表作成(表清書)ソフトとして利用せずに表計算ソフトとして利用することが重要です。この違いを意識していない企業が多いのは残念ですが、せっかくクラウドサービスを利用するのであればこの機会にその意識を変えていきましょう。

とはいえ、入力ばかりに気を取られて、参照時に見やすいようにA4にキレイに収めたいとなると両立は難しいことが多いです。私は入力シートと出力シートを分けることで入力の負担感が少なく、参照時の閲覧性も確保できる方法をお勧めしています。

(4) 事務所(本社)側の支援

また、オンラインストレージならではの事務所側からの支援も重要です。事前に計画数量や目標値といったものを電子帳票に入れておくことで現場でのミス発生を抑えることができます。IF関数との組合せでエラーが出るような仕組みがあるとより助かるでしょう。

コンクリート打設の最終調整量や施工の進捗に応じた残業の準備(冬ならヒーターや照明)について、現場状況をほぼリアルタイムで遠隔地から把握することで、経験不足な若手のフォローを事務所や別現場にいるベテランや上職者ができるようになります。写真との組合せでより精度の高い確認と指示もできます。

最初は普通の印刷用書式で作った電子帳票の入力からスタートして、徐々に便利にしていくといった感じになると思いますが、これも現場任せにせずに事務所(本社)側が主体となって進めていくことで現場全体の負担感を軽減していきましょう。

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