今回もデジタルトランスフォーメーションについてお話しをします。今日も前回同様、言葉(意識)の違いについてです。
前回は業務改善と業務改革、イノベーションとインベンションの違いについてお話ししました。今回はDXというより、準備段階で意識したほうがいい、類義語の対比をお話しします。
(4) 標準化と共通化
業務・作業の標準化とは関係者の中で、同一の作業を行えるように統一的な基準・手順を作成することです。複数の同じ作業に係る人がいる場合は標準化は共通化とほぼ同じです。実際に英語の動詞はどちらもstandardizeを当てはめることがあります。
しかし、中小企業において同じ役割を担っている人は工場や現場での作業者を除けば、意外と少なかったりします。つまり、標準化という形で作業を単純化するだけでは改善効果が限定的になります。
ここで重要なのは前後の作業もしくは業務も含めた共通化になります。ある作業は手書き、ある作業はシステム入力、ある作業はエクセルといったそれぞれでの標準作業を共通化して、すべてシステム入力にするといったこともありますし、顧客目線の発注日と自社目線の受注日はどちらも同じ意味なので、一方に共通化するといったこともあります。
中小企業での改善効果が限定的なのはこの標準化が限定的であり、全社的な共通化を意識した活動にまでなっていないことが一つの要因だと考えます。DXまでいかないにしても、デジタイゼーションやデジタライゼーションのステップで、関係者をどこまで広くとらえるかが効果を広めるポイントとなると考えます。
注意してほしいのは一気に全業務を対象にしろというわけではありません。少しずつ一部の作業から進めてもらえればいいのですが、その一部の作業を標準化していく際に、全社的な共通化を意識して進めてほしいということです。これはいうほど簡単ではないですが、各部署で標準化した作業をさらに全社で共通化していくというステップを踏むことが大切です。
平たく言うと作業の標準化はその上位の業務基準や関連する前後の作業によってまた変わっていく必要があるということです。「せっかく、この作業を標準化したのにまた変えるのか」と文句が出るのは、その考えを最初に説明していないからです。改善は一部の作業からとしてもトップのリーダーシップと全社の意識改革が不可欠なのです。
ISOの各マネジメントシステムでも全体最適を意識することが書かれていますが、なぜか個別最適な標準化で終わっていることが多く、せっかくのマネジメントシステムが負担だけに終わっていることがあります。全体最適といっても、個を犠牲にして全体を支えるといったものではなく、各作業のいいとこどりで会社全体で楽にできるようにするといったレベルでいいのです。この辺りもマネジメントシステムの意図がくめずにもったいない状態になっている気がします。
この個別最適と全体最適をできるだけ両立させるための重要なポイントは業務分掌つまり役割分担です。個々の作業の責任と権限が明確になっており、どこまでは自分で決めて、どこからが上司もしくは前後の作業担当者と相談すべきかが明確になっている必要があります。これが意外とふわっとしてたり、現実と異なっているケースが少なくないのもうまくいかない理由の一つです。特に権限側が不明瞭でどこまでやれるかがわからずに行き過ぎで他と衝突、やらなすぎで、標準化の空白部が生じるといったことがあります。
トップが方針を明示して、全社に周知徹底させるということも大切ですが、難しいのは、トップのコミットメント(公約、誓約)は抽象的で一作業に適用するにはピンときづらいということです。これは社長の言葉を部長が自分の部用に言葉を言い換え、課長がさらに自分の課用に言葉を言い換える必要があります。
例えば、品質向上と社長がいったときに部長は不良ゼロ、課長は不良を出さないでは担当者は具体的な実施策は思いつきにくいです。ここで部長が人材のスキル向上(そもそも不良を出さない人づくり)に言葉を置き換えて、課長が○○作業の標準化と教育の徹底(品質のバラツキが大きい作業の人づくり)と言い換えると担当者は実施策を容易に思いつくでしょう。前者のような伝言ゲーム的な方針表明では、ダメだということです。こちらも責任と権限、つまり役割分担が明確になっていれば、状況は改善すると思います。
全社での共通化を意思した各作業の標準化、そのための業務分掌とトップの関与がDXの第1歩ということです。