今回もデジタルトランスフォーメーションについてお話しをします。今日も前回同様、言葉(意識)の違いについてです。
前回は業務改善と業務改革、デジタイゼーションとデジタライゼーションの違いについてお話ししました。今回もDX本来の意味を違う意味にとられているかもしれないということを類義語の対比でお話しします。
(3) イノベーションとインベンション
イノベーションは直訳すると革新や新しい解決法ですが、日本では経済白書に技術革新と掲載されたため、こちらのほうが定着しているようです。実際は「既存の商品や仕組みなどに対して、新しい考え方や方法、技術を取り入れ、社会に大きな変革をもたらすこと」です。英英辞典だと「新しいアイデアや手法の利用」なのでかなり広い意味をもちます。
イノベーションの代表的な例としてはiPhoneが挙げられます。既にあった携帯電話や音楽再生プレーヤーをタッチパネルで容易に操作できる仕組みにし、さらにアプリという形で様々な機能を単機能化したことで使いやすさが大きく変わりました。ただし、イノベーションはある程度模倣しやすいです。Androidスマホを見れば、その理由はわかると思います。
一方、インベンションは発明です。例はダイソンの強力な吸引力を生み出したサイクロン式掃除機は発明品です。簡単に模倣はできません。ただし、イノベーションはそのままでは人々に使われるレベルにならないことがあります。
パナソニックの創業者松下幸之助氏は「商品化するのは良いアイデアを生み出すことの10倍難しい。その商品で利益を上げるのは、さらにその10倍難しい」と言われていたそうです。良いアイデアがインベンションならば、利益を上げるのがイノベーションなので、100倍大変だということです。
日本では基礎技術が発達しており、世界に冠たる技術がたくさんあるにも関わらず、下請状態から脱することができていないところがあるのは証拠です。iPhoneが発売された当時、日本企業では発明ではなく成熟した技術の寄せ集めというあまり高い評価ではなかったのですが、実際にはガラケーと呼ばれる日本の携帯電話を廃業に追い込んだのは記憶に新しいと思います。
つまり、デジタルトランスフォーメーションはイノベーション(革新)の延長上にありますが、インベンション(発明)なしでも可能だということです。別の言い方をすると中小企業でもデジタルトランスフォーメーションは実現できる可能性があるということです。
実際に多くのDX成功例は大企業ではなく、新興企業から生まれていることからもがわかると思います。イノベーションを行うには発明品がなくても、既存の技術をユーザー目線でどのように組み合わせれば、新しい顧客価値やビジネスを創出することができるかということを考える力が大切だということです。その点では最近ないがしろにされがちな社員教育で創造力を育てる仕組みが不可欠だと考えます。
もちろん、インベンションが不要なわけではありません。現在テレビの上位機種には有機ELが使われています。有機ELは日本企業も初期段階では開発に取り組んでいたいものの2010年頃までに撤退し、現在は韓国製で製品化しているのが実情です。テレビは日本の十八番と言っていた時代は昔となっているのが残念です。また、イノベーションは発明的なアイデアに基づいて実現されます。そばにインベンションある環境のほうがイノベーションは生まれやすいと思います。
「デジタルトランスフォーメーションは大企業だけができる特別なもの」でも「発明がないとダメ」ではありませんが、既存の技術を簡単に組み合わせるだけでもダメです。松下幸之助氏が言われたように100倍の大変さを切りぬけて初めて実現するものだと思います。そのために社員の創造力を含む実力や向上心を育てることがまずは第一歩ではないでしょうか。