デジタルトランスフォーメーション(その10)

今回もデジタルトランスフォーメーションについてお話しをします。今日も前回同様、言葉(意識)の違いについてです。

前回は標準化と共通化という類義語の対比をお話ししましたが、今回も準備段階で意識したほうがいい類義語の対比をお話しします。

(5) 形式知・暗黙知と可視化・差異化

形式知と暗黙知はあまり聞きなれない言葉だと思うので、最初に少し説明をしておきます。

形式知とは文章や図表・数式などによって説明できる知識を示します。企業でいうと業務手順書や説明書、いわゆるマニュアルと呼ばれるものがそれに当たります。明示知と呼ばれることもあります。

暗黙知とは経験的に使っているが言葉で説明できない知識のことで、経験知とも呼ばれるものです。企業でいうと経験や勘、ノウハウと言われているものがそれに当てはまります。

ちょっと難しい感じになりましたが、要は暗黙知である勘や経験を言葉に表すことで形式知であるマニュアルとするといったところがイメージできればOKです。

システムを構築するうえで、暗黙知を形式知にすることはより広範囲の業務を効率化するうえで必要な手順なのですが、なかなかこれが大変だという声が多いです。

しかし、今はITの進化により可視化もより簡単にできるようになりました。

例えば、従来はベテランの作業を後継に伝えるには、動きを観察し、苦労して言葉にしたり、写真をとって加工して、印刷できるように書式を整えていました。今は動画を撮り、その際にインタビュー形式で注意事項を音声で抑えるだけで形式知にすることができます。必要であれば音声を文字化することも可能です。

よく、ベテランの手順をマニュアルにするのは難しいと言われていますが、それは手順そのものが難しいというより、文章力とか図解力という情報技術が企業にないことのほうが多いと感じます。その点で動画マニュアルはその技術を別の技術でカバーしてくれるので有用です。以前もお話ししたと思いますが、コンピュータを使うことだけがITではありません。文章にまとめたり、図表を使ってわかりやすく情報を伝達できる技術もITです。

少し脱線しますが、さらにセンサー技術の発達により、より高度なマニュアル作りも可能になってきています。検査等でベテランが短時間で不具合を発見することができるのはなぜか、動画だけではわからなかったことが、アイトラッキング(視線計測)の機械を使って形にすると実は一定の法則性があって、驚いたということもあったそうです。

暗黙知は企業の差異化の源泉であり、簡単に形式知にするものではないという声もあります。確かに形式知にすることで模倣されやすい側面もありますが、経験をある程度の期間積まないとできない差異化は形式知にしても簡単には模倣はされません。むしろ、早い期間で後継者を育成できる分、企業の力は強くなると思います。

形式知と暗黙知は対義語ですが相反するものではなく、形式知から新たな暗黙知が生み出され(内面化)、それが組織としての共通の知識となり(共同化)、それを形式知として言葉にして(表出化)、新たな形式知としてまとめる(結合化)といった形でより高度な知識体系に昇格していくものです。つまり、暗黙知を形式知に可視化することで、差異化がなくなるのではなく、より高い差異化を生み出すことも可能だということです。

実際にマニュアル化が進んでいる企業ほどすべての業務をマニュアル化するのではなく、一部をあえて、社員の判断に任せることでよりよい改善を促せるような仕組みを取り入れています。

また、ちょっと難しくなってきましたが、勘や経験といったベテランのノウハウを可視化して、ITによりシステム化することは、決して勘や経験をないがしろにするものではなく、それらを補完して、より早く後継を育成したり、より高い企業の競争力に活かせたりすることだということです。

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