最近、みなし管理職の問題がクローズアップされていますが、逆に、部下なし管理職の急増に頭を痛めている企業もあるようです。高度成長期時代の大量雇用のツケで、それなりの役職につけた方を役職そのまま(当然給料もそのまま)に部下だけ新しい管理職にわたすようなことが行われています。「窓際族」のような言葉もありましたが、中途半端な成果主義の導入で窓際に座っている必要もなく(勤務時間が自由であるため)、出社状況も比較的緩やかな管理職を雇っている会社があります。
日本では管理職をヘッドハンティングされても困らないが、実務者に辞められると困る。米国では実務者はいくらでも増減出来るが、管理職は簡単に変えられない。こういった話を聞きますが、日本の管理職の実態をよくあらわしていると言えるでしょう。管理職とは、時間外労働をただで出来る役職であるというのが経営者の考えなのでしょう。
同様に、IT化によって中間管理職が中抜きされ、その存在意義を問われています。IT化による業務効率にもっとも反対する勢力が中間管理職だともいわれています。
なぜこのようなことになるのでしょうか。成果主義が問題なのでしょうか。業務効率のためにIT化することは人減らしのためなのでしょうか。どれも間違っています。
管理職の役割をきちんと理解もしくは定義しておらず、その実践が出来ていないからです。
管理職の定義とは、何でしょう。みなし管理職の問題で挙げられていたのは、次の3つでした。この際、役職名などはまったく無意味だとされています。
・経営者と一体的な立場にある
・勤務時間について自由裁量を有する
・役職手当等によりその地位にふさわしい待遇を受けている
さて、この定義を、経営陣・管理職は自覚しているでしょうか?ほとんど企業では×です。自覚しているならば、管理職になるのはもっと難しいはずですし、管理職のステータスは高いはずです。
成果主義導入によって、管理職の役割は、部下の業績・行動を掌握し、その達成度を管理することであると捉えている方もあるようですが、成果を指標化して見える形にしてしまえば、それはコンピューターが勝手にやれる仕事です。
部下のやるべき仕事内容が明確であれば、その達成度をいちばん知っているのは部下本人です。それが明確なものならば、きちんとした報いをできるはずで す。PDCAが回っているかどうかを確認する場合でも、仕組みが整ってさえいればスケジュール管理に類似することであり、マネージャーと呼ばれる人たちの 仕事ではないでしょう。
成果主義下での管理職の役割とは、部下たちの仕事の環境整備、すなわち成果をあげるためのサポートが主です。平たく言うと「部下に気持ちよく仕事をしてもらえるように」努力することです。叱咤激励も必要ですが、自分の管理範囲との折衝が重要です。権限委譲と称して、管理職会議に代理を出席させる管理職もいますが、それは職務放棄に近いでしょう。刺激を与えたいなら同行させるべきであり、仕組み整備や評価体制の向上を検討するべき場を、メッセンジャーボーイの集まりにすべきではありません。
管理職として、経営者との一体的な立場を意識するならば、自分の部下に会社全体の方向性を示し、人事調整や予算管理などを行い、組織としてスムーズに業務が運用できるように努力することが大切です。この外向きの視点、全社を見据えた視点が欠けている管理職が非常に多いのです。「今より一段上の立場ならどうするか、つきつめれば社長だったらどうするか」を、常日ごろ考えて行動することが求められいます。
経営陣の評価基準も問題です。名プレーヤーが必ずしも名監督ではないというのは、一般業務にもあてはまることです。しかし残念ながら、一般企業の評価軸はプレーヤーの優秀さがそのまま管理職の優秀さに直結しているように思えます。
管理職としての役割は、業務を手際よくやることと同じではありません。むしろ、違う資質を要求されます。そこがわかっている経営陣は非常に少ない。これは日本全体で経営のプロと呼ばれてる方が少ないことと同義です。
昨今の競争社会において、最近の管理職に必要なのは、将来リスクに対して問題点を考える力、行動するチェンジリーダーとしての役割、新規事業や新製品などを生み出せるよう世の中にアンテナを張るクリエーター的役割などです。
もちろん、簡単に出来るものではありませんし、時間軸で評価できるものでもありません。だからこそ、時間の自由裁量や役職相当の賞与があるのです。メッセンジャーボーイのように、上から言われたことを意味も考えずにこなしているだけの人は、本当の管理職ではないのです。
日本語でいう「管理職」は、海外ではマネージャーでもありアドミニストレーターでもあり、スーパーバイザーでもあり、コントローラーでもあります。自分の置かれた立場がどういう役割を担うべきなのか。経営陣であるならば、管理職にはどんな立場でいてほしいのか。「部下にはできない仕事」とは何か、もっと真剣に考えていただきたいと思います。