業務改革と業務改善

 中小企業の経営者の方と、将来像の話をすると「うちには固有の技術や特許がないからだめだ」と、お嘆きになることがあります。確かに他が真似できない技術をもっているのは素晴らしいことです。しかし、技術は日進月歩。いつまでも同じ技術では、いつか必ず他企業に抜かれます。しかし、だからと言って、そのために多額の研究開発費をかけるのも、中小企業にはとても難しいことでしょう。

 では、どうするのか。業務手順の改革を行うことです。技術力では大きく変わらない企業でも、業務改革によって大きな競争優位をもつことができます。

 例えば、QBHOUSEというヘアカット専門店です。10分1000円という、今までの理髪店では考えられないような時間と単価で業務を行います。髪を切るだけで、シャンプーや髭剃りもありません。電話やトイレもないようです。水を使わない、狭くても立地可能である等様々なコストメリットを生み出し、急成長しています。これは特別な例ですが、業務改革によって他社に負けない部分をもつことならば、可能ですね。

 業務改革で気をつけるべき点は何でしょうか。それは、やりやすい箇所にだけ手をつけて、難しい箇所はやらない傾向があることです。

 たとえば、経理や調達などお金をキーにした基幹システムを構築し、一気通貫で情報が流れるように業務を改革するといった例がありますが、パッケージソフトに業務を無理やりすり合わせている感もあり、失敗例が少なくありません。また、パッケージの導入が成功しても、他社も同様に導入すれば、競争力の強化に結びかないこともあり得ます。が、そんな話は誰もしてくれません。また、どこでもできそうなことばかりを業務改革と称して宣伝している感もあります。

 難しい箇所、つまりパッケージでは実現できない部分にこそ、業務改革=競争力の強化が存在するのですが、営業や施工、製造など、真の競争力強化に結びつく部分では、過去の成功体験や慣例が大手をきかして、業務改革をこばむのも事実です。業務改革は、経営戦略や将来計画をもとに目的や範囲をしっかり決めてからはじめる必要があります。当然、経営陣の関与なしに業務改革は出来ません。

 「業務改革って業務改善の積み重ねなの?」という方もありますが、違います。業務改善と業務改革の違いは、業務を部分的によりよくするか、根本的に業務そのものを見直すかの違いです。建築的にたとえると、業務改善は改築や増築程度ですが、業務改革は一回更地にして新築するぐらいの差です。そして、その結果、会社全体に寄与するのが業務改革なのです。つまり、業務改善はボトムアップでも可能ですが、業務改革はトップダウンでしかできません。積み重ねではなく、展開なのです。

 もちろん、業務改善が無意味なのではありません。日ごろの業務を見直し、より最適化することは、少人数でかつ影響範囲も小さくて可能ですから、効果が分かりやすく、成果も出やすいものです。何より、業務改革を行う際に、いくらトップが号令を出しても、業務改善で自らの業務をよりよくするような風潮がなくては、ほとんど成功しません。つまり、業務改善は業務改革の下地作りとして大切です。

 専門誌やニュースの成功事例を鵜呑みにし、いきなり業務改革に取り組んで失敗した例は多くあります。業務改善を行う風土作りが、業務改革を成功のひとつの鍵だということを覚えておいてください。

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