今回もデジタルトランスフォーメーションについてお話しをします。今日はDXのための企業の在り方についてです。
前回、指標でお話ししましたが、評価軸は基本定性的なものが中心です。デジタルトランスフォーメーションという名前からすると違和感を感じるかもしれませんが、数字で表しにくいことでしか評価しづらいということです。
デジタルトランスフォーメーションで勘違いされるのはAIやクラウドを利用することで実現するからデジタルといっているだけであって、基本は企業全体の思想、方針から生み出されるものです。だからこそ、定性的であり、トップのコミットメントだけでなく、企業文化いわゆるマインドセットと呼ばれる思考様式がデジタルトランスフォーメーションに取り組めるような意識になっていないとダメということです。
トップが「AIでなんかやれ」とか「クラウドでDX」とか言っているだけは論外ですし、社員が「現状維持でいいよね」と言っているようでは当然デジタルトランスフォーメーションは実現しません。アイデアはトップから出る場合もあれば、現場の第一線の社員から出る場合もあります。それを会社全体に広げることが可能な文化がないとダメだということです。
また、デジタルトランスフォーメーションは基本的に未知の世界に飛び込むもので、様々なことが「初めて」で経験や知識が通用しない現象や結果が起きうる可能性があります。これを少しずつ形にしていくには「仮説検証」つまり、結果の仮の答えを予測・推定し、実際に結果を導くための行動・作業を行った後、結果が仮の答えである仮説と一致しているか差異があるならどこかを検証することが大切です。
デジタルトランスフォーメーションにおける「仮説検証」は曖昧さが大きく、行動自体も定義しづらい部分があり、試行錯誤しながら進めていく可能性が高いので、硬直化した手順や考え方では対応できません。臨機応変に対応できる柔軟な考え方や状況によって、現場で即決即断出来るような権限移譲の仕組みがないとタイミングを逃してしまい、結果が思った以上に出にくくなります。
そのためにはクイックネス(俊敏性)と呼ばれる決まった方向に素早く動けるだけでなく、アジリティ(機敏性)と呼ばれる複数の選択肢がある中で最適な判断をして素早く行動できることが必要になってきます。このようなことができる社員や文化を育てていないとデジタルトランスフォーメーションはうまくいきません。「上司のいうことは絶対」といった上位下達(トップダウン)だけでなく、下位上達(ボトムアップ)もできる意思決定の双方向が実現できる環境を作っていかなければなりません。
もちろん、会社全体で一斉にデジタルトランスフォーメーションとはいかないと思います。起業したての会社でもない限り、既存事業を継続しつつ、準備を進めるといった形が一般的だと思います。
この場合に必要になるのはデジタルトランスフォーメーションの推進体制と人材です。先ほどの意思決定の双方向(柔軟な権限移譲)が可能であり、仮説検証を行うための予算や行動が許されている環境とそれを実現するための支援をしてもらえる状況を作り出す必要があります。
当然そこには、実際のデジタルトランスフォーメーションを実施できるデジタル技術やデータ活用に精通した人材がいなくてはいけませんし、デジタルトランスフォーメーションの対象となる業界や業務内容、規制等に関する豊富な知識がある社員も必要です。不足している場合には状況に応じて社外からの獲得や他社との連携も出てくるかもしれません。
さらに既存事業との調和も不可欠です。既存事業で働いている社員の理解や協力なしには最終的なゴールである会社全体のデジタルトランスフォーメーションは実現しません。全体最適を意識しながら部分最適から始めて、全体に広げていくための意識や行動ができないと効果が限定的になるからです。
定性的な内容でピンときづらいと思いますが、デジタルトランスフォーメーションのポイントは結局「人」だからです。「人」の意識が変わって、その意識のもとに行動できなければ、実現は難しいと考えます。