デジタルトランスフォーメーション(その12)

今回もデジタルトランスフォーメーションについてお話しをします。今日は、中小企業のDXについてです。

前回は政府のIT新戦略のお話ししましたが、全体的な話が多いのと規模感から自社としてどうしていけばいいのかが少しわかりにくいと感じた方もいるかもしれません。

改めて、DXを端的に言うと「デジタル技術でビジネスモデルや働き方を変える」ことです。もう少し説明すると「データとデジタル技術で業務の仕組みやサービス、事業モデルを新しく変えて、ユーザーの不満や課題を解消したり、これまで提供できなかった便利さを提供したりする」ことです。

しかし、中小企業では事業モデルの変革、ユーザーの不満解消と言われても得意先(発注者)、取引先(協力業者)、関係者(同業他社)の意向(制約ともいう)が大きくて、変革や解消に取り組むことが難しいことが少なくないです。

具体的にいうと例えば、発注者側が電子商取引(EDI)を始めたとしても発注者Aと発注者Bでは違うシステム、違うデータ書式だとどっちに合わせるのといった話が出てきます。これは逆に協力業者も一緒でこちらが希望したシステムやデータ書式でも他の取引先のことを考えると容認してもらえないということもよくあります。

国としてもこのままではいけないことは認識しており、中小企業共通EDIという仕様をは2018年には標準化し、公開もしているのですが、まだ広く普及には至っておらず、これから展開していくといったところです。

また、取引ではなく、通常の業務データやシステムも、本来はある程度のレベルで近隣や同規模の同業他社とシステムの共通利用やデータ書式の統一が図れると同業他社間でのデータのやり取りが容易になり、自動的に処理ができる作業も増えてきて、生産性向上につながります。建設業でJV(共同企業体)を組んだ場合などは特に大きな効果を発揮しそうです。

しかし、自社システムの差別化で他社より優位に立ちたいとか、現行システムの開発会社が技術不足や自社への囲い込みのために反対するといった理由で共通化ができないことも多いです。その場合は、理想をいうとシステム開発会社を変更するほうが望ましいのですが、システム開発だけでなく、機器の購入やネットワークの設定など様々なIT関連作業までお願いしていることもあり、変更のハードルが高いようです。

なので、中小企業のDXとは、世の中の準備が整った時にすばやく時流に乗れるように「自社の中だけでもデータやシステムをすっきりさせる」ことを目指します。まずは、社内全体で再利用可能なデータを一元的・一体的に利用できるようにする。そのために、自社が利用しているシステムの見直しはもちろん、組織、基準、手順を必要に応じて変更し、働き方改革を実現することです。

もう少しかみくだくと、自社開発システムだけでなく、市販ソフトやクラウドサービス、簡単なマクロ等もうまく組み合わせたITによって、社内のデータ利活用を促進し、特定の人・特定の場所でしかできない業務を減らし、いつでも休める環境づくりを会社全体でトップの関与のもとで、実施することです。特に転記を最小限にして、不要なデータ(利用目的のないデータ)は記録しないといったことを会社全体で行うことは効果的です。

工場(現場)だから、事務(内勤)だからというのではなく、全社で一体感をもって取り組むこと、社内のデータ(情報)の風通しをよくすることがDXとして一番大事なのだと思います。

外部に影響しない範囲であれば、大きく変えることは可能ですし、ユーザーを社員としてとらえるとするならば、前述したDXの定義を少し省略した形になりますが「データとデジタル技術で業務の仕組みを新しく変えて、ユーザー(社員)の不満や課題を解消する」ことが中小企業のDXだと私は考えます。もちろん、力ある中小企業は外部をどんどん巻き込んでいただきたいですが、まずは自社でもやれることから始めてみませんか。

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