経営改善と業務改善(その15)

今回も経営改善と業務改善についてお話します。

前回は改善を進めるために業務基準や業務分掌(役割分担)の見直しのポイントをお話ししました。今回は社員の改善力をつけるための環境整備についてお話しします。

前回、勤務時間中での改善時間確保のための業務基準の見直しや特定の仕事に縛られないようにするために業務分掌を見直す方法についてお話ししましたが、これはあくまで時間確保のためなので、本人たちの実力ややる気が出てこないことには改善が進まないのはいうまでもありません。今回は実力を身につけるための教育の仕組みづくりについてお話しします。

まずは、座学です。経営改善・業務改善の手法や経営改善・業務改善の流れ(PDCA)を学んでもらうことが大切です。これは改善対象となる担当だけでなく、社長を含めて、全社員が学ぶ必要があります。なぜならば、上司が理解できていないと部下に指導もできませんし、改善成果の評価ができないからです。

もちろん、教育は座学(本を読む、集合教育)だけでは身につきにくいです。実践が必要です。頭だけでなく体でも理解することが大切です。そのために簡単で短期間にできる業務改善を通して、手法を使って、流れを形にすることが望ましいです。一番身近な改善として、始業時・終業時の自分の準備作業や机周りの整理整頓といったところから手を付けるのがお勧めです。

例えば、終業時に机の上を片づけて、ものがない状態にするという改善を行います。フリーアドレス制の企業では、明日、その机が使える可能性がない場合もあるので、この片づける習慣は当たり前なのですが、中小企業で机を与えられているとついつい「明日続きをやるから」といって、わざと机の上の書類を残しておくことがあります。

見た目もよくないですし、風や掃除で書類の紛失の可能性もゼロではないので、セキュリティ面からも避けたい状態です。この時に引き出しの一部を開けておいて、全部投げ込んでおくというのは最終手段で、できれば、明日の作業内容をメモしたり、付箋を使って、続きがわかるようにしたうえで、正しい位置に戻しておくことが望ましいです。当然、このメモの取り方や付箋のつけ方(色・サイズも含む)が少しずつ改善されていくのはいうまでもありません。

特にメモはスマホに記録しておくといつでもどこでも見れることから、営業や現場担当の方には便利だと思います。さらに作業全体を記載したメモを用意してから、終わった順にチェックを入れておくと進捗管理もできて一石二鳥です。このあたりを習慣づけれるようになると、日常業務も作業計画を立てて、実行するといった流れができるようになってきます。

付箋も色で緊急度を表現したり、少し大きいサイズでメモをつけるようにしたりと工夫することで、作業忘れや遅れが減ってきます。複数の人が利用する資料の場合は、付箋を貼るのは難しいと思うので、先ほどのメモアプリかパソコンのデスクチップに付箋アプリで参照ページ数等を記録しておくといいと思います。

終業時を例にしましたが、複数の仕事を並行して進めている場合にもこの改善は使えます。そして、ある程度改善にめどがついたら、「私の改善事例」として社内に公開するとより良いです。もちろん、それに対して、周辺から評価してもらい、自信をつけてもらうことも必要です。

こういった、社員自身の小さな改善から始めることで、問題意識や改善手法を身につけてもらうだけでなく、改善に対する意識を育てていくことが大切です。経営改善・業務改善というとどうしても構えてしまい、コストダウンやスピードアップに意識がいきがちです。しかも、改善というより、作業を省略するとか、早く動くといった力業の解決策で対応しようとします。本来の改善はムダ・ムラ・ムリをなくして、気持ちよく正確に仕事をすることが目的なのですが、その意識が育っていない状態で改善活動を始めているために悪い改善活動が行われている企業が少なくないような気がします。

先ほどの机をきれいにするというのは、整理整頓やセキュリティ対策だけでなく、「探す時間」というムダをなくすための時間短縮の業務改善にもなっています。これを知らずに改善するのと知っていて改善するのでは次の展開が大きく変わってしまいます。なぜならば、前者だと、「机がきれいになって、なくしものが減りました」の整理整頓だけですが、後者だと「メモを取るようになって、探す時間が減りました。結果として日常業務での作業時間短縮にも貢献しています」となります。

意識を持たせて、改善させることは簡単ではありません。そのためにも全社員が手法や流れを知るだけでなく、目的や効果の意識づけを並行して行いながら会社全体で取り組むことが重要なのです。

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