今回も経営改善と業務改善についてお話します。
前回は社員の改善力をつけるための環境整備についてお話ししました。手法や事例の教育環境と身の回りの整理整頓をきっかけにした小さな業務改善の実践ができる環境づくり、それらを通して改善の意識づけを行っていくことが大切です。
とはいっても、「改善してくれて、ありがとう」だけでは、社員はやる気を失ってしまうでしょう。今回はそれらの結果を評価するための人事評価についてお話しします。
一般的に人事評価は業績評価、能力評価、情意評価の3つを軸にします。業績評価は売上目標や原価目標、対応案件数等を設定し、その目標の達成度をもとに評価を行います。能力評価は能力等級で設定した職能要件をもとに社員のスキルや知識を評価します。情意評価は規律性や責任性、積極性、協調性といった行動や態度、姿勢を評価します。最近は、情意評価の中に地域貢献といった指標も入るようになってきています。
なお、情意評価は3から5段階評価で行うことが多いですが、評価者のハロー効果(1つの評価が悪いと他も悪く評価する)や寛大化傾向(部下の反発を恐れ甘めに評価する)、中心化傾向(評価を無難なところに集中させる)、逆算化傾向(結果を先に決め、評価を逆算的につける)、対比誤差(評価者の能力を基準に評価する)といったことが多くなるため、注意が必要です。できるだけ、複数人で評価する、上司だけでなく部下や取引業者、発注者も含めた360度評価を実施するなどの公平性を維持する工夫が必要です。
少し脱線しましたが、業務改善はこの3つのどれになるでしょうか?業績目標の中に原価低減のような改善目標があれば、そこを評価することになりますし、能力評価で改善力といった能力指標があれば、そこを評価します。改善が小集団活動だと情意評価での協調性や積極性の評価も必要になります。つまり、3つの評価軸それぞれで評価する必要があるということです。
係員、主任、課長、部長では3つの評価の比重が当然変わってきます。係員レベルだと情意評価が主体となり、部長は業績評価が主体となります。役職に応じて業務改善をいろいろな視点で総合的に評価することが社員の納得感、社員満足度(ES)を向上させることになります。もちろん、評価を賃金に反映させることが理想です。
しかし、「うちはそこまで、人事評価は体系的になっていないし、一つしか評価軸がないんだけど」という声も聞こえてきそうです。改善効果を定量的に評価できる業績評価は比較的できそうですが、これでは若手の評価はしづらいです。若手の改善は本人もしくはその周辺の小さな改善を行うことが多く、勉強も兼ねているからです。
このような場合は、改善評価基準だけを独立して作り、定量的な評価だけでなく、定性的な評価も入れて、若手からベテランまで評価できるようにしましょう。また、管理系と技術系は評価軸が異なることが多いので、その点にも留意してください。マネージャーの改善は複数の人に効果を及ぼしますが、マイスターの改善は担当にしか影響を及ぼさない限り、時間軸でずっと改善効果が期待できる場合があるからです。
「賃金体系に入れるのは大変なんだけど」という企業なら賞与や一時金として、評価を金額に換算してください。賞与の目安は改善効果が継続するものなら、改善効果換算額1年分の半分を渡している企業もあれば、一律、金一封(1万から3万)といったところもあるので、改善内容や将来性、持続性を考慮して、決定してください。評価には褒美は不可欠です。最初は小さい額でもいいので、ぜひご検討ください。