経営改善と業務改善(その29)

今回も経営改善と業務改善についてお話します。

経営者目線と社員目線

前回は経営者目線と社員目線についてお話しましたが、今回もその続きといった形で内向きの経営方針についてお話します。

経営者目線と社員目線の全体的な目線と部分的な目線であり、一致することは難しいが、方向性を合わせることはできるとの話をしました。

では、それを実現するためにどのように進めればよいかとの話を今回していきます。意識づけや手法習得として、人事評価や報奨制度、社員教育の仕組みづくりは重要です。ミニ経営者ではないですが、管理職の役割を明確にすることも大切です。

とはいえ、「時間がかかりすぎて、そんな悠長なことはできないのだが」といわれる経営者の方もいます。ただでさえ、低成長もしくはマイナス成長の国内市場で、コロナ禍にある状態です。仮にコロナ禍が解消されるにしても、少子高齢化社会が簡単に解消するわけではないので、国内市場は今のままでは厳しい状況です。経営者の危機感は高まっているのはいうまでもありません。

内向き(社員向け)の経営方針

そのため、できるだけ早く方向性を上げる手段としてお勧めしているのが経営方針の明示です。とはいっても、ここでいう経営方針は、「地域に貢献する事業活動」とか「持続可能な未来づくりに貢献する」といった対外的な経営方針ではありません。内向きもっと平たく言うと社員向けの経営方針の明示です。

社訓や行動指針といった表現でもいいのですが、こちらも社員にこうなってほしいとの話は記載です。「創意工夫」や「法令遵守」「人権尊重」「価値創造」といった文言がならぶことが多いのですが、なかなかハードルの高いものが多いような気がします。

既存の経営方針や社訓、行動指針が悪いわけではありません。企業の一員として、顧客や外部の人と接触する際にどう対応すべきかをその方向性を明示することはとても大切です。ただし、経営改善、業務改善を進めるにあたっては経営者が社員に対して、どうするかが具体的になっている経営方針が必要です。

具体的に言うと、例えば、「経営改善に際して、業務は現状と変わることはあるかもしれないが雇用がなくなることはありません」とか「わが社の社員として、できるだけ多能工を目指してもらいますが、適性(得手不得手)はきちんと考慮します」とか「ベテランは管理的能力を期待しますが、技術的能力で会社への貢献を評価する仕組み(マイスター制度)も用意します」といった感じです。

社員満足度(ES:Employee Satisfaction)の向上といった経営方針を記載している企業もありますが、より具体的に形にしたほうが望ましいです。

マズローの法則と社員の気持ち

心理学者のアブラハム・マズローが定義したマズローの法則というのがあります。人間の欲求を5段階の階層で理論化したものです。具体的には食欲や睡眠欲といった生理的欲求、身体的に安全で経済的にも安定的な安全の欲求、社会集団に所属することによる安心感を得たい社会的欲求、集団の中で自分を認めてもらう承認の欲求、自己の持つ能力、可能性を最大限発揮したい自己実現の欲求の5段階で、下位の欲求が満たされていないと上位の欲求を実現しづらいというものです。さらに社会をより良いものにしたいといった自己超越の欲求という第6段階もあるそうです。

既存の経営方針や社訓、行動指針は4段階目までは実現済みで、第5段階である自己実現の欲求、もしくは自己超越の欲求を満たすような内容が多い気がしますが、社員は本当に実現していると感じているのでしょうか。

急な人員削減、不景気による給与削減といった話がネットニュースや新聞で多くなり、長期的な経済の低迷、失われた30年という状況下で、社員の不安は低くないと思います。だからこそ、社員向けの経営方針を示すときです。経営改善に取り組む際にはぜひ、この社員向けの経営方針をセットで考えてください。

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